Chapter2
自社に必要なグローバルリーダーの数を見積もる
自社のグローバル戦略を理解した上で、企画設計に向けて、グローバルリーダー育成プログラムの方向性を固めよう。自社のグローバル展開において、どのくらいの人数のグローバルリーダーが必要なのか?定められた期限までに求められる数のリーダーを育成することが、グローバルリーダー育成プログラムの重要なゴールの1つとなる。そこで今回は、量的ニーズをつかむためのポイントを解説する。
Q:自社のグローバル展開に必要なグローバルリーダーの数を見積もるには、何を押さえればよいのか?
A:「目標とする期限」「海外拠点の数や規模」「グローバルリーダーを配置するポジション」の3つ
(1)目標とする期限
第1回でも説明したが、自社のグローバル展開のスピードに合わせて、必要となるリーダーポジションとその人数、育成期限が決まる。したがって、まず自社のグローバル展開のスピードを見定め、何年後を目標として育成プログラムを展開するのかを明確にする必要がある。
例えば、第1回の注釈でも紹介した、アジアを中心に海外出店の拡大が続くユニクロ。2010年8月期の時点では、海外事業の売上高構成比は約1割(海外店舗数136)だったが、2013年8月期予測では2割(同446)を超えた[*1]。 2-3年後には売上構成比を半分以上に高め、さらに2020年には売上高5兆円を目指し、日本、中国、その他アジア、欧米の各地域で1兆円ずつを売り上げる計画だという。毎年5,000億円の売上成長を実現させるためには、年間売上高20億円の店舗を毎年300店舗出店することを考えている[*2]。
急激なグローバル展開を行う企業の場合、どの時点をターゲットにするかで、進出、拡大する地域や事業規模、拠点数が異なり、求められるグローバルリーダーの数は大きく異なってくる。ユニクロは、上記を達成するために2009年9月に企業内人材育成機関「ファーストリテイリング・マネジメント・アンド・イノベーション・センター(FRMIC)」を設立。最終的に200名のグローバルリーダーを育成する。第1期には100名を選抜しており、一部の人員を半年ごとに入れ替えながら育成を続けている[*3]。
一方、商社やメーカーのように海外売上高比率が高く、長年グローバル展開を進めている企業であれば、「何年以内に」という特定の期限よりも、毎年一定数のグローバルリーダーを社内の人材育成計画に落とし込み、着実に育てるだろう。
(2)海外拠点の数や規模
グローバルリーダー育成は、(1)で狙いを定めた時点のグローバルリーダーの配置計画に応えられるように進める[*4]。そこで、グローバル展開計画に基づいて、海外拠点の数や個々の拠点の規模を押さえることが必要になる。
その際、海外拠点の全体数と規模に加えて、拠点の特性も把握しておきたい。地域や拠点の役割(生産、販売、開発のいずれか)だけでなく、事業戦略における重要度や緊急度なども洗い出しておくと、グローバルリーダーの育成ニーズをより詳しくつかむことができる。
この作業は、人材育成部門だけでは判断しかねることが多い。グローバル事業企画の責任者を巻き込み、グローバル展開計画の情報を集めよう。
(3)グローバルリーダーを配置するポジション
最後に、自社における「グローバルリーダー」を定義し、(2)で明らかになった拠点数や規模をふまえ、本社管理の下で「グローバルリーダー」を配置するポジションとその数を把握する。近年のグローバルリーダー育成では、多くの企業の場合、このポジションに配置するリーダーの発掘と養成が最重要となっている。
例えば、タイヤ市場シェア世界トップ(2011年)で、25カ国に178生産拠点を展開するブリヂストンでは、グローバル共通の人材マネジメントに基づき、グループ経営において重要となる約180の役職(GKP:グループ・キー・ポジション)を特定。この役職を担える人材を選抜、育成するプログラム(グローバル・ディベロップメント・クラス<GDC>プログラム)を、2004年から毎年、外国籍社員も含めた約20名を対象に行っている[*5]。
なお、実際にプログラムで育成するグローバルリーダーの数は、「グローバルリーダー」を配置するポジションの現在および将来の充足度合を想定して、割り出すことになる。その際は、社内の人的資源の実態に照らして、必要なグローバルリーダーをすべて社内で育成するのか、外部から採用も行うのか、日本人社員だけでなく、現地ローカル人材にも相応しい人材がどれくらいいるのか、などの検討も必要になってくるだろう。
人材が流動的であることを前提にした欧米企業のリーダー育成では、ポジションにおける役割要件[*6]を具体的に定義し、その要件にふさわしい人を育成、選抜する。役割要件が明確なため能力要件[*7]も明確になりやすく、求められる能力開発の要件も導き出しやすい。そのため短期間で効果的な育成、選抜を行うことができる。また、グローバルに展開する多様性の高い組織にとっては、客観的で統一的な運用が可能だ。
一方、日本企業のリーダー育成は、ポジションにふさわしい人材の育成よりも、人物そのものの育成に焦点が当たりがちだ。終身雇用が前提の人材が固定化された組織で、長い時間をかけて様々な仕事やポジションを経験させ、そこで関わった多数の人たちの評価を積み上げ、「人物自身」を包括的に育成、選抜する。最終的に、幅広い経験を持ち、自社組織に精通するゼネラリスト的なリーダーを育成することが目的だからだ。
グローバルに展開する企業では、日本企業であっても人材の流動化に直面することになる。また、グローバル展開の加速化と競争激化の中、グローバルリーダーのポジションをより確実に遂行できる人材をできるだけ速く育成することが求められる。
必要なタイミングに量・質ともに必要なグローバルリーダーを揃えるには、ポジションの役割や能力の要件が曖昧で、能力開発に長い時間をかける日本式のゼネラリスト育成は機能しづらい。各役割に求められる能力要件を満たす「ポジション主義」の人材育成へのシフトが求められるだろう。
今回のポイント
- グローバルリーダー育成プログラムのゴールの一つは、定められた期限までに、グローバルリーダーを必要数育成すること
- 自社に必要なグローバルリーダーの数を見積もるには、「目標とする期限」「海外拠点の数と規模」「グローバルリーダーを配置するポジション」を押さえる
次のChapterでは、グローバルリーダーにふさわしい人材の能力要件や人材像を明らかにするプロセスを紹介する。
リンクは記事掲載当時のものとなります。
*1:2013年7月時点の予測
「グループ別事業内容」株式会社ファーストリテイリング ホームページ
http://www.fastretailing.com/jp/ir/library/pdf/ar2010_04_n.pdf
*2:「2012年8月期事業戦略説明会」 株式会社ファーストリテイリング ホームページ
*3:FRMICにおけるグローバルリーダー育成
「グローバル・リーダーの育成 MBA以外の選択肢」日経ビジネス(2011年7月4日号)
*4:グローバルリーダーの配置計画
グローバルリーダーの配置計画を満たす人員の確保には、採用と育成の2つの方法があるが、本連載の内容は、主に育成を行う企業を対象としている
*5:「次世代経営層の継続的な育成」株式会社ブリヂストン ホームページ
最新の会社情報:http://www.bridgestone.co.jp/corporate/library/data_book/index.html(2013年9月15日)
*6:役割要件
組織の各ポジションに求められる役割
*7:能力要件
組織の各ポジションの役割を遂行するにあたり、求められる能力