Step by Step [Basic]

Chapter3
自社のグローバルリーダー像を明確にする Part1

グローバルリーダー育成プログラムの主要なゴールは、定められた期限までに、求められる役割、成果、能力を満たす「グローバルリーダー」を必要数育成すること。第2回では、期限、人数など量的ニーズをつかむポイントを解説した。そこで今回は、質的ニーズをどのように固めるのか、自社の「グローバルリーダー」の「期待役割」「期待成果」「能力要件」を明らかにする過程を見ていこう。

ここで「期待役割」「期待成果」「能力要件」の整理をしておこう。組織における各ポジションに期待される役割と成果が、「期待役割」と「期待成果」だ。そして、「期待役割」を遂行し、「期待成果」を達成するために求められる能力を「能力要件」という。

「能力要件」を満たす人材がグローバルリーダーのポジションに就いていないと、「期待役割」は果たせないし、「期待成果」も達成できない恐れがある。社内人材の現状の能力と求められる「能力要件」の間にギャップがある場合は、能力開発によって現状のギャップを解消するか、「能力要件」を満たす人材を外部から採用することになる。

社内人材の能力ギャップを解消する手段の一つがグローバルリーダー育成プログラムだ。したがって、能力開発の前提となる「期待役割」「期待成果」「能力要件」については、プログラムを具体的に企画開発する前に明確にすることが求められる。では、どのようにそれらを明らかにしていけばよいのだろうか。

Q:自社のグローバル展開で求められるグローバルリーダーの「期待役割」、「期待成果」、「能力要件」を明らかにするには、どのような過程をたどればよいのか?

A:自社のグローバルリーダーの「期待役割」と「期待成果」を設定した上で、その「期待役割」を果たし、「期待成果」を達成するために求められる「能力要件」を明らかにする

(1)「期待役割」「期待成果」「能力要件」の関係

グローバルリーダーのポジションの「期待役割」「期待成果」「能力要件」について具体的に考えてみよう。例えば、海外拠点の責任者というポジション(A)に配置するグローバルリーダーの「期待役割」と「期待成果」を次のように設定したとする。

  • 海外現地法人を統括する現地責任者として、会社全体の損益(P/L)の責任を負うため、事業戦略および予算・実行計画を立てるとともに、会社の運営全体を統括する(期待役割)

  • 3年以内に、主力製品の海外における市場シェアを○○%、売上高を××億円にすることに貢献する(期待成果)

    この「期待役割」を遂行し、「期待成果」を達成するためには、どのような能力が求められるだろうか?

    例えば、「事業戦略および予算・実行計画を立てる」役割には、「地域を理解して戦略を立案する力」が求められる。さらに、「現地法人の運営全体を統括する」役割に求められるのは、「判断をぶれなくスピーディーに下す力」、「現地社員に対し経営方針を伝える力」、「多様なメンバーから成る組織全体に求心力を保ち、組織全体を結束させる力」となる。

    また、現地で市場シェアと売上を拡大し期待成果を達成するためには、「現地の市場動向、消費者ニーズ、行動、文化、商習慣の理解をふまえた事業戦略の立案力」「現地の経営や事業上の判断をぶれなくスピーディーに下す力」「目標達成に向けて組織全体を結束させる力」が求められる。このように「期待役割」を遂行し、「期待成果」を達成する能力が「能力要件」だ。

    能力要件(例)

    (2)自社のグローバルリーダーの「期待役割」「期待成果」の設定

    3つの要素の関係性を理解した上で、まず、自社のグローバルリーダーの「期待役割」と「期待成果」をポジションごとに設定しよう。

    この時重要なのは、人材育成部門だけで考えず、経営層や海外事業部門と協議することだ。海外事業も含めて経営責任を負う経営層、事業責任を負う海外事業の責任者、現在または過去の海外拠点リーダーから、事業の方向性や課題、現地での経験に基づいた意見を聞く。この人たちは、グローバルにおける経営や事業の責任者の立場にあるため、経営視点で自社の実態に則した「期待役割」や「期待成果」を指摘してくれるだろう。グローバルリーダー育成プログラムの目的は、自社のグローバル展開を支えるリーダーを育てることなので、経営や現地の視点を持った彼らの現状の問題意識や要望を押さえることが欠かせないのだ。

    (3)自社のグローバルリーダーの「能力要件」の設定

    次に、(2)で整理された「期待役割」や「期待成果」を達成するために求められる能力を、ポジションごとに設定する。(1)の例ではすでに「能力要件」が提示されているため簡単に設定できそうに思えるが、実は「能力要件」を導き出す過程は、多くのアイデアを整理して吟味するため、時間と労力がかかる。

    ここでも、経営層や海外事業部門の責任者、海外拠点リーダーの経験者の意見を取り込もう。自社の「能力要件」の妥当性やカバー範囲を検証するにあたっては、自社がすでに掲げている理想のリーダー像、社内で高い成果を出したグローバルリーダーの人材像、国内外の経営団体や調査・教育機関が公表している調査研究レポートなども参考になるだろう。ただし、社外の情報の背景や状況は、自社の方針や実態とは異なるため、あくまで参考情報として扱った方がよい。

    第1回で述べた通り、企業ごとにグローバル展開のスピード、地域、段階などの状況が異なるため、「能力要件」は一般的なものではなく、自社のグローバル展開に対応した内容であることが大切だ。そうでなければ、能力開発の取り組みが事業の実態やニーズとずれてしまう。

    例えば、海外売上高比率が高く、長年グローバル展開している建設機械メーカーのコマツでは、営業・マーケティングと製品サポートを主に行う現地法人の経営トップに、現地の市場やマネジメントを熟知しているローカル人材を、内部昇格で登用している。一方、近年急速に海外進出しているヤマト運輸では、日本から派遣された現場リーダーが、現地組織に自社の理念や価値観を浸透させ、ローカルのセールスドライバーの指導を行う。

    現地化の進行度合いが異なるため、ひとくちに「グローバルリーダー」と言っても、同じ能力要件を当てはめることは難しいだろう。例えば、コマツの現地法人トップには「営業・マーケティング分野の知識」、「事業戦略の立案・実行力」、「会社全体を統括する組織マネジメント力」といった能力が主に求められるだろう。それに対し、ヤマト運輸の日本人の現場リーダーに求められるのは、自社の理念や価値観を浸透させるための「価値観が多様なメンバーに対するビジョン浸透力」、「異文化コミュニケーション力」、「自身の伝えたいことを的確に相手に伝える語学力」などが重んじられるだろう[*1]

    「期待役割」「期待成果」「能力要件」がいったん整理されたら、海外事業部門の関係者に共有しよう。育成プログラムを実際に導入する前に、今後の能力開発に関する現場のコミットメントを引き出し、育成プログラムを現場で活かし、学習活動を組織成果につなげるサポーターをつくるのだ。

    今回のポイント

    • グローバルリーダー育成プログラムのゴールは、期限内に、求められる役割、成果、能力を満たすグローバルリーダーを、必要数育成すること
    • グローバルリーダー育成プログラムの企画設計の前に、グローバルリーダーのポジションに求められる「期待役割」「期待成果」「能力要件」を明らかにする
    • 「期待役割」「期待成果」「能力要件」を設定する過程では、経営層や海外事業部門の主要人物を巻き込み、今後のグローバルリーダー育成へのコミットメントや賛同、協力を促す

    次のChapterでは、グローバルリーダーの能力要件について、最近の動向を紹介する。


    リンクは記事掲載当時のものとなります。

    *1:「日本企業のグローバル経営における組織・人材マネジメント報告書」(経済同友会、2012年)

    http://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2012/120425b.htmlicon_window

    「インタビュー我が社の人材戦略 幹部は国籍・入社方法不問――ヤマト運輸人事総務部長 大谷友樹氏」(日経Bizアカデミー、2011年)

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