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職場における感謝の勧め
台湾と日本への出張から戻ったばかりで、秋が感謝という行為にいかにふさわしい季節かを強く感じています(編集注:この記事は2019年11月に執筆されたものです)。世界には、秋の収穫がもたらしてくれる恩恵や季節の移り変わりを祝う慣習や祝日が多くの文化で見られます。感謝は私たち人間が共有できる概念で、それはおそらく生物学的に組み込まれているからでしょう。実際、カリフォルニア大学バークレー校のSummer Allen博士は以下のように述べています。
「…研究によると、感謝は人間に本来備わっているもので、生物としての人間を形作る基礎的要素の一つである。」
脳科学者によると、感謝をすることが、社会的絆を形成したり、他者の行動や意図を感じ取ったりするのに使われる脳のさまざまな部分を活性化させることが分かっています。加えて、感謝は脳の中に報酬の感覚を作り出し、多くの感謝を感じている人ほど、その感覚が強化されるのです。ご自分の感謝のレベルを知りたい方は、カリフォルニア大学バークレー校 Greater Good Science Centerの20問のクイズに答えてみて下さい。
職場における感謝に関する脳科学
Robert EmmonsやMichael McCulloughのように、多くの科学者が「感謝」について研究しています。彼らは感謝を、2つのステップからなる認知過程として、以下のように定義しています。1) 「自らがポジティブな結果を得たと認識する」 2) 「このポジティブな結果には、外部的な要因が存在することを認識する」
要するに、感謝とはありがたいという気持ちを表現すること - それはありがたいと感じている状態であり、得られた恩恵の重要性を高く評価している状態です。研究者によっては、感謝を以下の3つのタイプに分けます。
- 物事に感謝しようとする気質
- 感謝する気分やその変化の度合い
- 贈り物を貰ったり親切な行為を受けたりする時に感じる一時的な気持ち
15年に渡る感謝についての研究は、感謝がもたらす多くの効用を明らかにしています。私たちの多くは年末年始の祝日に食事をする前に感謝を述べますが、感謝という行為が生活のあらゆる部分にもたらす強力な効用を、年間を通じて私たちは生かし切れていないかもしれません。研究によれば、感謝は精神的充足に大きく役立ち、私たちをより幸せにし、より穏やかにし、人間関係も改善してくれるものなのです。
感謝は、人生のさまざまな困難に対する緩衝材にもなってくれます。研究によれば、感謝は睡眠の質を高め、ストレスを軽減させ、幸福感を高めます。感謝には防御的な要素もあり、免疫系を強化し、心臓発作、自然災害、銃乱射といった衝撃的な出来事からより素早く回復するための助けとなってくれます。
感謝は、薬物使用の程度を下げ、依存から立ち直るための助けにもなることもわかっており、米国に蔓延する薬物使用に対処する強力な手段ともなり得ます。また、抑うつ状態や自殺的思考・行動を低減させることも証明されています。
職場での感謝の力
それでは、こうした効用を私たちの生活や職場にどのように持ち込めばよいのでしょうか。それは案外簡単なことなのですが、最も大切なのは日頃から実践することです。ワシントン大学のRyan Fehr博士は、マイクロソフトやアマゾンといったテクノロジー系の大手企業と提携し、職場での感謝について研究しています。彼によれば、何よりも大切なことは感謝の習慣、つまり、「特定の文脈で感謝の心を抱く安定した傾向」を作り出すことです。もちろん私たち自身にも可能なことですから、皆さん一人一人がどうすれば習慣を構築できるかぜひ考えてみて下さい(いくつかの方法を以下に記します)。
Fehr博士はこうも言います。従業員が感謝の習慣を構築することに組織が時間をかければ、「組織のメンバー間で持続的に感謝が共有される」強力な組織文化に作り変えることができます。これにより、仕事に対する積極性や勤続率、そして健康状態までもが向上するのです。
職場で感謝を増進させるために実行できる戦略を五つ挙げます
- 会議を感謝で始める
自己紹介やプロジェクトの進捗で会議を始める代わりに、感謝している物事についてシェアしてもらいましょう。これによりお互いを知ることになるだけでなく、より今ここにある状態、よりストレスの少ない状態になります。心から何かに対する感謝を表している時には、混乱したり心配な状態でいたりすることはほぼ不可能なのです。血圧を下げ、ドーパミンやオキシトシンを放出させるなど、感謝は私たちの身体を実際に変化させているのです。
- 感謝の行為をする
私たちの文化では、問題を指摘することはよく行いますが、ポジティブなことに光を当てることは稀です。あなたが前回、同僚の仕事ぶりについて、あるいは彼らがチームにもたらしている才能について、感謝を表現したのはいつのことでしょうか。あるいは家族のメンバーや隣人に関して無条件で、ポジティブな人柄について語ることはどれくらいあるでしょうか。
私たちは、見てもらうこと、聞いてもらうことに常に飢えています。ですから、誰かに対して、その人について尊いと思うことを伝える時間を作りましょう。他人に感謝を伝えると、伝えられた人はポジティブに後押しされます。職場では、これはさまざまな効用につながります。Camille Preston博士によれば、「感謝は積極性と信頼を構築し、勤続率を高め、より高品質な仕事の成果につながる」のです。他者に対して感謝を表現するのを習慣とするにはどうすればよいのでしょう。同僚に対する感謝のために、オンラインのツールやスマートフォンのアプリを使ってみましょう。またはカラフルな付箋やペンを使って、同僚を称賛する掲示板を常設しましょう。もしくはプロジェクトの会議中に、他者に対する感謝を伝える時間を組み込みましょう。その週に達成できたことに関係する内容が良いでしょう。
もう一つ、単純な方法があります。「お礼のメモ」の使用を奨励するのです。最近では手書きのメモは珍しくなったので、大変有り難がられます。良い例を挙げましょう。あるシリコンバレーのテクノロジー系の大手企業の上級役員が、トップの成績をおさめた技術者に手書きのメモを渡したのです。
受け取った彼はとても誇りに思い、このちょっとした取り組みにより、長い間に渡って仕事の成績に積極性が現れ、勤続率の向上にもつながったのです。ぜひあなたもメモを一箱買って、お礼を送ってみましょう。
- 影響に着目する
いくつもの研究によれば、自分の努力が他者にどのように影響を与えるかがわかると、感謝を感じることができ、それに伴って得られる様々な健康上の効用も得ることができます。人を助ける仕事に就く人たち、例えば救助隊、消防隊、医療従事者の方々は往々にして、自分たちの努力の成果を直接見ることができます。しかし、私たちの具体的な仕事が何であれ、我々はみな、他者に影響を与えているのです。それは、プロジェクトをスムーズに進めることかもしれないし、あまり調子のよくない同僚を支えることかもしれないし、職場のミッションやビジョンを達成するための特定の役割かもしれません。マネジャーや上級幹部は、組織の成功体験や、組織が世界にもたらしている影響について語ることで、この最後のつながりをよりクリアにすることができます。これを行う一つの方法として「お客様の声」プログラムを実施することがあります。掲示板にお客様からの手紙を貼り出すような簡単な方法から、お客様の体験談などの凝った映像ドキュメンタリーを作ることまで、様々あり得ます。加えて、組織は従業員のボランティア活動を支援し、様々なプログラムを通じて企業の社会的責任を体現することができます。例えば地元の非営利企業を自社の一部としたり、近所の清掃活動に参加したり、寄付金についてマッチング拠出(一定割合を上乗せして拠出すること)をしたりです。一人一人の従業員が、良い仕事に参加している実感を得ることが大切です。
- よりマインドフルになる
感謝とマインドフルネスの効用はとても近しいものであるため、科学者達はそれらを「姉妹」と呼んでいます。マインドフルネスはヨガから瞑想まで様々な形があり、フォーマルな座禅から単にお皿を洗う行為まで、幅広いものです。例えば「感謝」を題材にして「瞑想」をするなど、両者を合わせた時、ポジティブな影響はより強いものとなります。ウィスコンシン大学のRichard Davidson博士は、マインドフルネスは脳に重要な変化をもたらすことを発見しています(彼の著書”Altered Traits”をご参照下さい)。ハーバード大学医学部の研究によれば、瞑想は脳の構成に物理的な影響を与えます。偏桃体を収縮させ、不安やストレスに反応しにくくするのです。
- 日記をつける
感謝の日記をつけることは簡単に習慣化ができることが、多くの研究によって証明されています。複数の異なる研究から、感謝の日記をつけた人は、そうでない人に比べて、たった2週間の実践で、身体的により健康になったという結果が出ています(例えば、血圧が低くなる、頭痛が少なくなる、腹痛が少なくなる、肌がきれいになる、鬱血、筋肉痛、悪心が改善する、などです)。 私はベッドサイドに感謝の日記を置いています。毎晩、私が感謝している三つのことを書きます。その日のことでも良いですし、人生全般についてでも良いことにしています。私たちの仕事はストレスの多いものになりがちですので、職場に感謝の概念を持ち込むことが大切なことだと思っています。ですから、三つのうち一つは仕事のことを書きます。この習慣によって、忙しい一日から体をほぐして、より安眠できるようにもなりました。
私がいつも感謝しているのは、考え方の似ている多くの専門家たちとのネットワークがあることについてです。お互いに連絡を取り合い、共に学び、支えあう機会にとても感謝しています。
感謝を込めて、
Britt より
- <参考資料> カリフォルニア大学バークレー校Greater Good Science Center 2018年発行 「感謝に関する白書」
この記事は、Britt Andreatta博士のブログに2019年11月25日に掲載されたものです。 原文(英語)はこちらからご覧いただけます。