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「大退職時代」を考える (2)「燃え尽き」と向き合う
燃え尽きがもたらす大きな打撃
従業員が現在の仕事を辞める理由の第1位は「燃え尽き症候群」です。燃え尽きとは、長期にわたるストレスによって引き起こされる感情的、身体的、精神的疲労のことです。
リーダーシップ・コーチでもあるKim Hires博士は、ある動画の中で、以下のように述べています。「人々の状況は深刻です。長い間、このような状況が続いていましたが、COVIDに伴うこの1年半という時間に、誰もが限界を超えてしまい、様々な業界が崩壊しようとしているといえます。」さらに、何千人もの視聴者が残したコメントの中には、次のようなものがあります。
「私は大丈夫ではないし、以前のような社員になれるかどうかもわかりません。私は今、別人になってしまったのです。何事も、もうどうでもよくなりました。」
「職場で毎日泣いています。命を救っているわけでもなく、ただアメリカの企業で働くだけの人間なのに。」
「もう仕事をする気が起きない。クビになってもいい...。」
「人事管理のクラスでちょうどこのことを議論していました。元からそうだったけれども、COVIDが加速させたのでしょう。人々はもう我慢できなくなっているのです! 」
Ann Masten博士によると、自然災害の時、人間は「サージ能力」と呼ばれる力を利用することができるそうです。例えばハリケーンや地震などの急なストレス状況を生き残るために備わっている精神的、肉体的なシステムです。しかし、ほとんどの地域で回復の兆しが見られるようになる6ヶ月が経つ頃には、その能力は枯渇してしまいます。今回のパンデミックではそれはあてはまりません。
Emily Nagoski とAmelia Nagoskiの著書『Burnout: The Secret to Unlocking the StressCycle』では、燃え尽きの3大要素として、「感情の枯渇」「達成感の欠如」「共感力の枯渇」が挙げられています。
中でも「達成感の欠如」と「共感力の枯渇」は、退職者の増加の原因となっています。どんなに頑張っても、空回りしているようにしか感じられない状態です。そして、ネガティブな感情が大きくなると、それをどうしても仕事に投影してしまう人がいます。
実は、燃え尽き症候群の唯一の治療法は休養であり、別の仕事を始めることではないのです。新入社員の25%が初日に出社しないという「ゴースト現象」が増加しているのはこれが原因であると思われます。仮に出社したとしても、そうした社員は短期間で辞めてしまう危険性があります。
また、「ブーメラン現象」も起きています。燃え尽き症候群で仕事を辞めたがまだ別の仕事を始めていない社員が、十分な休息時間を得て組織に戻ってくるケースも見られます。
燃え尽きはパンデミック以前から深刻な問題で、米国だけでも関連する医療費として2,000億ドル近くが費やされています。2019年、WHO(世界保健機関)は、職場のストレスがうまく管理されていないことによる燃え尽きは職業性疾病であると宣言しました。当時、労働者の約53%が燃え尽き症候群にかかっていたと言われています。しかし今、それは異常なレベルに達しているのです。春には70%もの人が燃え尽き症候群を経験していましたが、新しい調査によると、89%まで上昇しています。
燃え尽き症候群はじわじわと進行し、疲れすぎて、十分な注意をしたり積極的に行動したりすることができなくなります。心理学者のChristine Hohlbaum氏は、以下のように述べています。「悲しいことに、ほとんどの人は手遅れになるまで、自分の人生が徐々に支配されていることに気づかない。手遅れになる前に、燃え尽き症候群の患者を前向きな変化へと導くためには、外部からの介入が必要なのです。」このような理由から、燃え尽き症候群は、「魂の浸食 」とも呼ばれています。
燃え尽きは、魂の浸食
心理学者のSherrie Bourg Carter博士は、「本格的な燃え尽き症候群に陥ると、個人レベルでも仕事レベルでも効果的に機能しなくなる」と述べています。最近、世界中の職場で起こっている争いごとや非礼な行為の増加には、燃え尽き症候群が関係していると考えられます。従業員アンケートには、次のようなコメントが寄せられています。
「プロフェッショナリズムの欠如、受動的な攻撃性からあからさまな攻撃性までが見られるようになった。」
「電話会議で、これまでで最も職業倫理に反すると思われるやりとりがあった。」
「この4ヶ月で、私のキャリアの中で最も多くの部下が泣くのを見た。」
人は文字通り、自分の感情をコントロールする能力を持ちえていませんし、自分の暴言が他人に与えるダメージについて共感や思いやりを感じる余裕もなくなっているのです。このことが最終的に一層の負担となり、さらなる退職につながるのです。Porath博士とPearson博士は、ある従業員の悪行が同僚にどのような悪影響を及ぼすかを研究しました。その結果、次のことがわかりました。
- 80%がその出来事について心配し、仕事の時間を失った
- 78%が組織へのコミットメントが低下したと回答した
- 66%がパフォーマンスの低下を感じた
- 48%が仕事に注ぐ努力と時間を意図的に減らした。
- 12%が離職した。
燃え尽き症候群に対処することは最優先事項です。燃え尽き症候群とは何か、そして自分自身や他人の兆候を認識する方法を人々に教える必要があります。さらに、燃え尽き症候群について、また、それがもたらす影響について、率直に話し合う必要があります。最も重要なことは、人々に休息と充電を奨励することです。それが燃え尽き症候群の唯一の治療法であり、多くの人は自分ではどうすることもできないのです。
年末年始の休暇が近づく中、社員に数日多めに休みを与える(あるいは自分自身も休みを取る)のがよいでしょう。可能であれば、計画を簡素化したり、規模を縮小したりして、休息と充電のための余地を作りましょう。仕事との間にしっかり境界線を引くために、携帯電話のメールのプッシュ通知を解除して、退屈なときに仕事をする誘惑に駆られないようにしましょう。最初は魅力的に思えなくても、楽しいことや遊び心にあふれたことをすることに集中するよう、心がけましょう。