ブリット・アンドレアッタ博士のブログから

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「大退職時代」を考える (3)働きすぎ、そして喪失と悲しみの波

私は「大退職時代」について調べていくうちに、この歴史上稀に見る時期が生じる上で、いくつかの重大な要因が重なっていることに気づきました。前に進むためには、これらの要因がどのような影響を及ぼし、組み合わされることによってどのような相乗効果を生むのかを理解する必要があると考えています。

働きすぎと休養不足

退職理由のトップである「燃え尽き症候群」については、既に見てきた通りです。燃え尽きは、過労と休養不足の組み合わせから発生するものです。

今回のパンデミックは、在宅勤務を阻む長年の壁を打ち破りました。リモートワークの社員は、職場勤務の社員と同じか、それ以上によく働くという研究結果がありますが、経営者はそのデータをリアルタイムで目の当たりにしました。古くからの神話は数週間で崩れ去り、仕事とは何か、それはどこで行われるべきなのかを誰もが再考することになったのです。

しかし、ロックダウンは、人々が働きすぎ、休養不足となり、燃え尽き症候群を引き起こす要因にもなりました。2020年の調査によると、パンデミックによってリモートワークに移行した労働者の70%が週末も働くようになり、45%がロックダウン前よりも週あたりの労働時間が増えたと回答しています。実際、パンデミック中には、1日の労働時間が9時間から12時間に増加しました。睡眠時間にも仕事が侵食するようになりました。燃え尽き症候群の症状のひとつに不眠がありますが、電子メールプロバイダーによると、真夜中から午前3時までのログオンが急増することもよくあるようです。

ロックダウンの最中、人々は普段の休息や充電(例えば食事、旅行、ペディキュア、ジムなど)の手段を失った代わりに、より多くの仕事をするようになりました。職場に通うという明確な境界線がなくなり、多くの人が、働くことでパンデミックによる不安や不確実性を和らげているつもりになっていたのです。

多くの企業は、2020年に利益を維持できただけでなく、過去最高レベルの業績を残しました。経営者がその成功を喧伝するのを聞くと心配になるのは、その短期的な利益は持続不可能なものだからです。私たちは今、あらゆる分野で記録的な燃え尽き症候群や退職者が出るという形で、その代償を払っているのです。

喪失と悲しみ

パンデミックは燃え尽き症候群を引き起こしただけでなく、悲しみの波をも引き起こしました。ピュー研究所* 1 の最近の調査によると、アメリカ人の72%が、COVID-19によって死亡または入院した人を個人的に知っていることがわかりました。この割合は、ヒスパニック系(78%)と黒人(82%)の回答者ではさらに高くなります。感染の高まりのつど、死者数が積み上がり、あらゆる国に悲しみが広がりました。

悲しみは身体的にも感情的にも強烈な体験です。悲しみや怒りといった感情を超えた、以下の典型的な症状について考えてみましょう。

家族や友人を失ったことを悲しむ人が多くいたのはもちろん、ほとんどすべての人が「何らかの」喪失を悲しんでいました。『Finding Meaning – The Sixth Stage of Grief』の著者であるDavid Kessler* 2  氏は、次のように述べています。「私たちはさまざまな悲しみを感じています。世界の激変、「正常」の喪失、経済的な打撃への恐怖、つながりの喪失...。これらが私たちを襲い、私たちは悲嘆に暮れているのです。このような集団的な悲しみの空気は、私たちが初めて経験するものです。

悲しみはそれだけで人の気持ちが消耗させられるものですが、私たちは病気になることや死ぬことへの恐怖にもさらされてきました。病院や遺体袋、葬儀の映像は毎晩のように流れ、私たちは常に身の安全の心配を強いられました。がんを克服した人なら誰でも、自分の死と向き合うことで、価値観や優先順位が明確になると言うでしょう。

人々の中で何が重要なのかがはっきりし、人々は自分の人生を変えるために行動を起こし始めたのです。その中には、転居(記録的な数の都市部からの転出)、人間関係の解消や再定義(別れや離婚が増加)、従来の仕事から完全に離れて自分のビジネスを立ち上げることなどがありました。昨年、米国では過去最高の430万件の新規ビジネスが誕生し、多くの人々が長年の夢を実現するために飛躍しました。 ソーシャルメディアのチャンネルは、多額の報酬を得るインフルエンサーに転身した副業者であふれ、その多くはロックダウンの間に視聴者を獲得したのです。

従来の仕事に留まりたい人の多くも、まだ変化を求めています。最近の世論調査では、65%がフルタイムでリモートワークをしたいと答え、さらに31%がハイブリッドな形態で働くことを望んでいると回答しています。この自由な働き方のために給料を下げてもいいという人もいますが、その必要もないかもしれません。人手不足のため、多くの雇用主はより高い賃金とより良い福利厚生を提供し、人材を獲得するための競争を余儀なくされています。全米産業審議会によると、賃上げのための予算は4%近く増えており、これは2008年以来最大の伸びとなっています。


*1  米国ワシントンD.C.に拠点を置く、意識調査・意見調査を行うシンクタンク。
*2  死生学の第一人者として、死、悲しみ、喪失に関する講演や著述で知られる。

この記事は、Britt Andreatta博士のブログに2021年12月16日に掲載されたものです。原文(英語)はこちら別ウィンドウで開く/Open the link in a new windowからご覧いただけます。

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