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「大退職時代」を考える (6)克服するための7つの戦略(3~4)
3. 燃え尽き症候群に積極的に取り組む・・・まずは自分から
パンデミック以前は、燃え尽き症候群が最も危ぶまれた集団は、週40時間以上働き、完璧主義的な傾向のある成績優秀者でした。経営者やシニアリーダーの多くは、燃え尽き症候群に陥っていながら、必ずしも自覚していません。リーダーは、曖昧さやストレスに対処する方法として、より多くの変化やイノベーションを推進する傾向があります。これが燃え尽き症候群の症状(イライラ、怒り、共感力の低下)と結びついた場合、リーダーは無神経な人、あるいは従業員の健康を脅かす人とさえなりうるのです。
この24ヶ月間は、リーダーに非常にプレッシャーのかかった時期ですから、休息と充電の機会が与えられてしかるべきです。休暇の予定を立て、その重要性を説き、休息とリラックスする時間を確保するよう部下に強く勧める、あるいは奨励して、範を示しましょう。一部の企業では、会社の休日を増やして連休の機会を作ったり、休暇取得のためのボーナスを支給したりしています。従業員を補充するには、年俸や手当の50〜250%といった費用がかかるため、こうした取り組みは長い目でみればコスト削減につながります。
休養のほか、燃え尽き症候群を抑制し、回復力を高めるのに役立つものとして、次のようなものがあります。
・定期的なマインドフルネスの習慣を設ける
Richard Davidson博士の研究によると、一日あたり10分でも定期的に瞑想を行う人は、ストレス要因に対する回復力の増加、不安やうつ病の減少、感情反応性の低下、老化の遅延など、さまざまなメリットを享受することができます。Desk Yogi、Calm、Headspaceなどのツールを利用して、マインドフルネスの恩恵を社員と共有してみてはどうでしょうか。
・感謝の気持ちを表す
さまざまな研究により、感謝することは睡眠の質を高め、ストレスを軽減し、免疫力を高め、私たちをより幸せに、穏やかにするなど、全体的な幸福感を高めることが分かっています。カリフォルニア大学バークレー校のGreater Good Science Centerでは、感謝の気持ちを実践することで職場を変えるための戦略をいくつか紹介しています。
・自然の中で過ごす
私たちは現在、93%の時間を室内で過ごしていますが、これは私たちの健康に大きな影響を及ぼします。自然の中に身を置くことは様々な効果をもたらしますが、科学者たちは、週に3回、少なくとも20分間を外で過ごすことがポイントであることを発見しました。これはストレスホルモンであるコルチゾールを減少させるのに最も大きな効果があります。また、水分をとることには癒しの効果もあり、私たちをより穏やかで、つながりのある、創造的な状態に導いてくれます。詳しくは、生物学者Wallace Nichol博士の著書『The Blue Mind』をご覧ください。
・人と遊ぶこと
そう、遊ぶことです。ほとんどの動物がそうであるように、人間は生物学的に、十分に安全でリラックスできると感じたときにだけ遊ぶようにできています。パンデミックによるロックダウンは、同僚との付き合い、スポーツやゲームなど、普段の遊びを私たちから奪ってしまいました。遊びを再開することで、身体は快方に向かい、必要な喜びを得ることができるのです。安全第一はもちろんですが、燃え尽き症候群からの回復を促進するためにも、遊びや社会的なイベントを生活に取り入れる方法を考えてみてください。
優れたリーダーは、社員のストレスを軽減し、燃え尽き症候群から回復させるためのサービスを取り入れています。これには、有給休暇、マインドフルネスなどのウェルネスプログラム、メンタルヘルスやセラピーサービスの充実などが含まれます。今日の労働者は、自分のウェルビーイングに心から関心を持ち、それに投資してくれるリーダーを求めているといえます。
4. 目的・意義のある仕事を重視する
パンデミック以前から「パーパス」の重要性についてはFast Company誌、Forbes誌、The Guardian紙でも取り上げられ、「パーパス」を重視する労働者は増加傾向にありました。2015年、『The Purpose Economy』の著者であるAaron Hurst*1氏は、「私たちは『パーパス経済』の出現の初期段階にある。20年も経たないうちに、目的の追求は第3のアメリカ経済といわれる情報経済を凌駕することになりそうだ。」と述べています。パンデミックによって、彼の予測は加速されたようです。
Hurst氏の主張を裏付ける調査はこれだけではありません。ある調査では、ミレニアル世代の71%がキャリアの成功を決定する上位3つの要因の1つに「意義のある仕事を見つけること」を挙げ、94%が自分のスキルを重要な理念を実現するために役立てたいと考えていることがわかりました。しかし、仕事で意義を感じていると答えた従業員は、実際にはわずか半数でした。
今、仕事における目的や意義への渇望は、かつてないほど高まっています。多くの人がパンデミックに遭遇し、より有意義な経験を求めるようになりました。驚くなかれ、多くの人がこの欲求を職場で満たそうとしているのです。コラムニストのJessica Stillman氏は、「大退職時代の問題は、仕事の形式の問題ではありません。仕事の意味の問題なのです。」と書いています。
仕事における目的意識と意義の創造に重点を置いている企業は、新入社員を惹きつけ、既存の社員をより多く定着させることができるでしょう。最近のHarvard Business Review誌の記事では、離職率の低い組織の人事担当役員を特集しています。その6人全員が、「優秀な人材を維持する文化の基本として、パーパスを挙げている」のです。
パーパスは、この不透明な時代における単に聞こえのよい言葉ではなく、ビジネスの成功につながるものです。Raj Sisodia氏、David Wolfe氏、Jag Sheth氏の研究によると、目的と情熱を重視する企業は、S&P500の14倍*2の業績を上げていることが分かっています。プライス・ウォーターハウス・クーパーによる別の調査では、パーパス志向の企業は生産性が400%高いことが分かっています。
パーパスへの意識は、健康面にも驚くべき効果をもたらします。脳卒中や認知症などの加齢による衰え、うつ病のリスクを軽減する神経保護作用があるのです。さらに、目的意識を持つ人は、心臓発作のリスクの低減、炎症反応のレベルの低下、さらには寿命の延長など、他の健康上のメリットも享受しています。「Life On Purpose」の著者であるVic Strecher博士は、以下のように述べています。「強い目的意識を持つ人は、DNAがより効果的に修復され、抗体を多く持ち、炎症性細胞が少ないことがわかっています。強い目的意識を持つ人は長生きするのです。」
*1 パーパスが社会を動かす鍵となっていくと唱える社会起業家。Imperative社の創設者でもある。同社から記事提供を受けた必読シリーズ「パーパスのつかみ方」もご覧下さい。
*2 S&P ダウ・ジョーンズ・インデックスが算出する米国の代表的な株価指数。
この記事は、Britt Andreatta博士のブログに2021年12月17日に掲載されたものです。原文(英語)はこちらの記事の中盤です。