―エッセイコンテストに応募したきっかけと、今回、受賞したエッセイについて教えてください。
中田先生:本校は中高一貫校で、中学生にあたる前期課程3年間と、高校生にあたる後期課程3年間の6年制の学校です。一般的に、高校1年生は新しい環境に慣れることで一年が過ぎていってしまいがちですが、本校では中高一貫校である利点を活かして、後期課程が始まる4年生は3年生までに積み上げてきた力を校内外で発揮する「飛躍の年」ととらえています。英語科でも校外での活動に積極的に挑戦してほしいと思い、4年生の生徒たちが活躍できる場を見つけるために、英語の大会やコンテストに広くアンテナをはっています。その中で、IIBCエッセイコンテストが時期的にも夏休みの課題としてちょうどよいと思い、選択課題の一つとして提案しました。
星見さん:夏休みの宿題として中田先生からこのコンテストを教えてもらった時、1年生から学校の課題として定期的に取り組んできた英語のエッセイを、学校の外で発表するということに挑戦してみたいと思い応募しました。今回のエッセイは、幼稚園の同級生だった障害を持つ友人との再会によって、意識をしないうちに生まれてしまう偏見があることに気づきました。その壁を取り除くことで、宗教、思想、文化の違いを乗り越えて世界を広げていくことができると考えたことについて書きました。
呉さん:私は日本で生まれ育った中国人です。日本では私自身が「外国人」であり、今回のテーマである「異文化」にふだんから興味を持っていました。そんな自分の思いを英語の文章にまとめて発表することで、多くの人に知ってもらいたいと思い応募しました。今回のエッセイは、日本と中国の二つの文化を持っていることで、自分のアイデンティティを見つけられずにいた私が、さまざまな文化を持つ人々が暮らすオーストラリアでの経験を通して、文化は違っても自分の立場に誇りを持って、お互いに理解しあおうとすることが大切だということを学んだという内容です。
―英語のライティングは、普段どのように勉強していますか?
星見さん:学校の授業でライティングに取り組む機会が多いです。1年生から英語の宿題として週1回ほど300語くらいのエッセイを書いてきました。最初は難しかったですが、4年生まで続けてきたことでエッセイを書くことに対する抵抗はなくなってきました。
呉さん:私も授業でやってきたことが英語のライティングの役に立っていると思います。とくに宿題で書いたエッセイは、ネイティブの先生が毎回添削してくださるので、とてもありがたいです。
中田先生:エッセイライティングについては、英語を習い始める1年次で、基本的な書き方を指導し、定期的に課題を出しています。4年生になるまでに50本ほどの短いエッセイを書いたことになります。エッセイのトピックは、基本的には授業で扱うリーディング素材に関するものです。普段の授業では、英語の4技能をできるだけバランスよく伸ばしてあげたいという思いがあります。ある素材を聞いただけ、あるいは読んだだけで終わらせると流れていってしまうので、一回の授業で、まずは「聞く」、次に「読む」、そして「話す」、最後に「書く」ことを着地点にするというサイクルを作っています。この「書く」部分でエッセイを取り入れて、添削して生徒に返すまでが一連の流れになります。
星見さん:エッセイを書き始めた頃は、日記や学校の行事の感想など簡単なものでしたが、3年生になると死刑の是非についてとか、テクノロジーについてなど、だんだんと日本語で書いても難しいようなテーマがトピックになりました。私は難しいトピックの時は、まず調べたことを日本語で箇条書きや簡単な図にしてから英語でまとめていくという形で進めています。
呉さん:1年生からエッセイに取り組んできて、日記や感想なら英語で書けるようになりました。トピック自体が難しい時は、日本語と英語の両方でトピックについて調べてから英語でまとめるようにしています。4年生からは、あるトピックについて3分間でできるだけ多く の文章を書くという学習方法も習いましたが、これも役立っていると思います。
―今回のエッセイを書くにあたって難しかったことや、受賞された感想を教えてください。
星見さん:小石川フィロソフィーという選択式授業では、海外交流の授業を選択していて、オンラインでアメリカ、カンボジア、インドなど様々な国の高校生と交流したり、意見交換をしたりしています。それが今すごく楽しくて英語は好きな科目ですが、得意かと言われると自信がありませんでした。今回のエッセイコンテストも最初はワード数が500語以上と長いので身構えていました。ところが、考えているうちに伝えたいことがたくさん出てきて、わかりやすくまとめる作業が大変になりました。1つのエッセイを書き上げたことは自信にはなりましたが、今回、受賞したと聞いた時は「まさか自分が」と驚きました。
呉さん:もともと英語は好きな科目で、検定等にも積極的に挑戦しています。日頃から自分自身が「異文化」であると感じていたので、今回のエッセイの「私を変えた身近な異文化」というテーマを見た瞬間に書きたい内容が頭に浮かびました。でも、500語以上の長いエッセイを書くのは初めてで、英語で自分の考えを正確に伝えることの難しさを感じ ました。より伝わりやすい文章になるように、なるべくシンプルな表現を使って書くことを心掛けました。今回、賞をいただいたことで自分の強い思いを伝えることができたと実感し、とてもうれしかったです。
中田先生:このコンテストのエッセイを夏休みの選択課題にしたところ、4年生160人のうち約100人分のエッセイが集まりました。始業式に回収してから〆切まで数日しかなかったので、選考だけでも時間がかかり、添削はグラマーチェック程度しかしていません。今回の作品は2人がそれぞれ自分の感性で仕上げたものです。校内選考で100作品から2作品を選ぶのは大変でしたが、この2人の作品は、自分にとっての異文化という独自の視点で、自分の内面の葛藤や成長といったものを瑞々しく書くことができていて、きらりと光るものがありました。自信を持って選びましたが、2作品とも受賞したと聞いた時は、本当に感動しました。努力が報われたと感じるとともに、外部で客観的な評価をされるという経験は、2人にとって大きな成功体験になったと思います。
―IIBCエッセイコンテストに応募して、よかったことはどんなことですか?
星見さん:自分が考えていることを人に伝えるために文章にすることで、自分の考えがまとまるという面もあったので、書くことの大切さを学ぶことができました。また、授賞式に参加させてもらった際は、トップレベルの高校の生徒や留学を経験した人も多く、校内だけでは気づかないことも校外の人とのコミュニケーションで気づくことができ、とてもよい刺激になりました。さらに、副賞のAFS短期留学でフィリピンでの語学研修とボランティアをさせていただくことになりました。この機会を活かして、受け身にならず、現地の方たちと英語で話したり触れ合ったりしたいと思っています。
呉さん:私は英語の文章にまとめることで、心の中だけにとどめていた思いが整理されて自分の意思がより明確になり、「次は行動してみよう」と、次の一歩につながるきっかけになりました。実際にこのエッ セイに挑戦した後、英語のフォーラムやディベートコンテストなど、様々なことに挑戦しています。これからもいろいろ挑戦して、ライティングはもちろん苦手なスピーキングもブラッシュアップしていきたいです。授賞式で会った他校の受賞者は、みなさん国際社会に対する意識が高い人ばかりだったので、とても刺激を受けました。
中田先生:今回、2人が受賞したことは、同級生によい刺激を与えるきっかけにもなりました。実は、IIBCエッセイコンテストの他にも、4年生が中心となって意欲的に外部の様々なコンテストや大会に挑戦して入賞するなど活躍しています。このように、同級生が挑戦し結果を出している姿が周りの生徒の励みになり、「自分も挑戦してみよう」「私もがんばりたい」と、生徒たちの間にお互いに高めあえる風土ができていると感じます。また、IIBCエッセイコンテストでは、各学校2作品まで応募できる本選以外に、団体で応募できる奨励賞の枠があるので、学校代表に選ばれなかった生徒の努力も無駄にならない点がよりよいところだと思います。奨励賞は選考の対象にならないものの、後日、フィードバックをもらうこ とができます。このフィードバックはとても丁寧なもので、参加した生徒たちの励みになりました。受賞する・しないに関わらず、生徒の成長の場として、非常に有意義な機会になったと思います。
―「東京グローバル10」指定校ならではの英語の取り組みについて教えてください。
中田先生:本校は「東京グローバル10」指定校ということで、国際理解教育に力を入れています。3年生全員が参加するオーストラリア語学研修と、5年生全員が参加するシンガポール海外修学旅行を大きな2つの柱として、帰国後の成果発表や、現地で行うプレゼンテーションなどの準備を年間を通して進めています。また、海外の提携校からの生徒も年間を通じて受け入れており、さまざまな国の生徒と交流があります。英語科でも外国人の教員が複数名在籍していて、個別にライティングの添削をする時間をとったり、わからないことがあればすぐ質問できたりする ので、生徒にとっても心強い存在となっています。
―「小石川フィロソフィー」とは、どんな授業ですか?
中田先生:小石川フィロソフィーは課題研究の選択式授業です。各教科を担当する教員がそれぞれ独自の講座を開き、現在は文系から理数系、社会系まで12講座あり、幅広い選択をすることができます。英語科では私が担当するディベート講座と、別の教員が担当する海外交流の2つの講座があります。星見さんは、海外交流の講座を選択しています。呉さんは数学の講座をとっているのですが、英語が得意なのでディベート講座の生徒に誘われて課外でディベートの活動もしています。
―英語の4技能が求められる中で、英語を指導する際に心掛けていることは?
中田先生:「英語を使う」訓練という意味では、生徒が思考して発話するための枠組みとして、ディベートが有効だと感じています。社会的なトピックを扱うことでリサーチする力がつきますし、制限時間の中で自分の意見を伝えるために考える力が必要になります。さらに、肯定側と否定側にわかれて意見を交換するディベートでは、自分の意見を述べるだけではなく、相手の意見に傾聴して理解することができないとキャッチボールになりません。この「聞く力」こそが、これからの時代にも求められる力だと思います。後期課程では、単に英語を話せればよいということではなく、ディベートという枠組みの中で、聞く力を鍛え意見のやりとりをする訓練にどんどん取り組んでいきたいと思っています。
―星見さん、呉さんの将来の夢を教えてください。
星見さん:私は子どもの教育に興味を持っています。AFS短期留学でのフィリピンのボランティアもストリートチルドレンなど貧困層の子どもたちへの教育的サポートが含まれています。そのような経験の中で、子どもの教育に関わる仕事でやりたいことが見つけていきたいと思っています。
呉さん:将来なりたい職業は、まだ具体的には決まっていないのですが、今、グローバル化やIT化が注目されていて、これからは今までにない職業も生まれてくると思います。そういった動きにも柔軟に対応できる国際人になりたいです。
(本記事の取材は2019年2月に行いました。)
星見さんのエッセイはこちら The Invisible Wall( 51KB)
呉さんのエッセイはこちら My Identity( 30KB)
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一般財団法人 国際ビジネスコミュニケーション協会
IIBC高校生英語エッセイコンテスト事務局
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