災害時に在住外国人を語学面でサポートする
東京都防災(語学)ボランティア制度
避難所などで外国人に寄り添い不安を解消する
国内で最も在留外国人数が多い東京都には、184の国・地域から来た55万人ほどの外国人が暮らしています。日本語でのコミュニケーションが難しい方や、災害の少ない国・地域で育った方もいるため、災害発生時には、英語など語学面での支援が必要になります。
東京都では、1995年に発生した阪神・淡路大震災で、ボランティアが復興の一翼を担ったことに教訓を得て、同年、ボランティア制度を発足。当時、東京都にはすでに多くの外国人が在住していたことから、災害時に語学面で外国人を支援することも必要だと考え、翌年に東京都防災(語学)ボランティア制度を設置しました。
この制度でボランティアに登録するには、一定の語学力(英語の場合、TOEIC Listening&Reading Test 730点以上など)が必要となります。2021年4月時点で、英語のボランティアには426名の登録者がおり、災害発生時には、東京都が発信する災害情報の翻訳や、避難所などにおいて外国人被災者の通訳に携わります。東京都生活文化局都民生活部多文化共生推進担当課長の齊藤寛人氏は、「ボランティアの主な役割は、避難所などで外国人に寄り添い、彼らの母語や、英語などの通じる言語で今の状況を伝えたり、疑問に答えたりして、不安を解消することです」と語ります。
実際に災害が発生した場合、災害対策本部と同時に立ちあがる「外国人災害時情報センター」がボランティアの派遣を担います。都内の各自治体から寄せられる、語学ボランティアの派遣要請と、ボランティアの方の派遣可否の情報をマッチングすることで、外国人の支援につなげるのです。19年に発生した令和元年東日本台風の際には、外国人向けに発信する情報の翻訳をボランティアが迅速に行い、外国人へ正しい情報を伝えることに貢献しました。
平常時の研修と防災訓練で災害時対応を学ぶとともに語学力を磨く
平常時には、語学力を磨くとともに災害発生時の対応を学ぶ研修や訓練も行っています。年3 ~ 6回程度の研修では演習を中心に、外国人とのコミュニケーションにおけるスキルや心構えなどを習得するといった、多岐にわたる内容を学びます。
また、年1回実施している「外国人のための防災訓練」は、ボランティアの方にとって重要な、語学力と災害時の対応力を高める場となっています。訓練では、ボランティアの方が、外国人参加者の案内と通訳に従事。例えば、外国人参加者が起震車体験などを行う場合、事前にその趣旨を英語などで説明し、体験後に感想を聞き取ったりすることで、参加者に寄り添いながら、防災の大切さを伝えています。他にも、展示ブースで出展者との通訳を行うなど、実践的な語学力を身に付けていきます。
20年度はコロナ禍により、訓練や対面研修ができなかったため、オンライン研修として、「多文化共生の視点から考える地域防災―防災語学ボランティアに求められる心構え―」をテーマに講演などを行いました。
しかし、研修や訓練だけでは実践の機会が限られているため、今後の課題は「ボランティアの方の語学力の維持向上につながるよう、平常時に、ボランティアが語学力を生かすことができる場を拡充することです」と齊藤氏。最近では、都立高校に通う外国人の保護者面談をはじめ、都内で通訳が必要な場面に、ボランティアの登録者を派遣するという取り組みを少しずつ始めているそうです。
災害時に、外国人を語学面で支える東京都防災(語学)ボランティア。いざというときに備えるための取り組みが、日々進められています。
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