Vol.1
    映画のDVDを使ってリスニング力を身に付ける

    2021年10月号

    本記事は、同志社大学グローバル地域文化部教授 植松茂男氏に寄稿していただきました

    植松 茂男氏 プロフィール

    同志社大学グローバル地域文化学部教授、大学英語教育学会(JACET)理事、関西支部長。1957年生まれ。大阪大学文学部卒業、コロンビア大学院修了。Ed.D.(教育学博士)。摂南大学教授、京都産業大学教授などを経て、現職。専門は言語習得論、英語教授法、早期外国語教育など。著書に『英語学習と臨界期 第2言語習得研究と帰国生教育から』(松柏社)、『Long-term effects of Learning English』(Springer)などがある。

    Point
    ● 音声を英語、字幕を英語に設定し、好きな映画を見る
    ● 字幕なしで見ても、台詞が頭に浮かぶまで繰り返し見る
    ● 意味が分からない箇所は、日本語字幕を参考にする

    皆さんの中で、英語の読み書きはある程度自信があるのに、リスニングには全く自信がないと感じる方、多くありませんか?

    ここでは、DVDでリスニング力が飛躍的に伸びるという事実を紹介します。学術的にも多くの成果が報告されています(参考文献ご参照)。本学でもこの方法で、TOEIC Programなどの点数が飛躍的に伸びたといううれしい知らせを受けています。

    例えば、皆さんの好きな英語の映画があるとします。好きな俳優さんの映画でも結構です。何度も見たくなるような映画であれば最も好ましいです。ここでは、「ハリー・ポッター」のDVDを例に使ってみましょう。皆さんも昔ご覧になったことがあると思います。シリーズ最初の「賢者の石」を使います。

    まず、音声を英語、字幕を英語に設定します。すると夜の街をさまよい歩いているダンブルドア校長が猫に向けて

    “I shouldʼve known that you would be here, Professor McGonagall.”

    と話しかけるシーンから始まります。できるだけ字幕を見ないようにして聞き取ろうとしてください。I shouldʼveの部分は日本の英語教育を受けた人にとって、意味は分かるが聞き取れないと思います。でもこの「意味が分かる」ことがとても大事なのです。学校教育の賜物です。ただ、実際の会話での発音の仕方、語彙の使い方は、書き言葉とは違います。高校までの英語教育ではそれがきちんと分けて教えられていません。さらに、McGonagallは固有名詞ですから、Professorだけ聞き取れれば十分です。すると次のシーンでは、マクゴナガル副校長が猫から変身し、

    “Are the rumors true, Albus?”

    と尋ねます。Albusは勘のいい人なら、ダンブルドア校長のファーストネームだと気付くかもしれません。2人は並んで歩き、校長が次のようにつぶやきます。

    “Iʼm afraid so, professor. The good and the bad.”

    この辺りは聞き取れる人も多いはずです。2人の会話は次のように続きます。

    “And the boy.”  “Hagrid is bringing him.”

    原作を日本語吹き替えで見た人は、the boyがハリー・ポッターを指していると分かるはずです。
    そこに空からハグリッドが現れ、3人は赤ん坊を抱いて、ある家に向かいます。

    “Do you really think itʼs safe, leaving him with these people?”
    “Iʼve watched them all day. Theyʼre worst sort of Muggles.”

    マクゴナガル副校長は再び懸念の言葉を繰り返します。Muggleが「普通の人間」を表す魔法界の用語だということを知らない場合は、ストーリーを前もって一度通しで、日本語で見ておくのが良いかもしれません(ほとんど忘れてしまった人も)。
    その後、ダンブルドアは涙ぐむハグリッドを、

    “There, there, Hagrid. Itʼs not really goodbye, after all.”

    となだめ、(There, thereがなだめる言葉だと分かればすばらしい!)

    “He is far better off growing up away from all of that.” “Until he is ready.”

    と言いながら、ドアの前に赤ん坊を置いて

    ”Good luck! Harry Potter.”

    と告げます。

    ここまで約2分程度の会話ですが、これを字幕なしで見ても全て台詞が頭に浮かぶまで、繰り返し見ます。英語の意味が分からない箇所は、日本語字幕を参考にしても良いでしょう。これが1回分の練習です。丁寧にやると1時間近くかかると思います。多すぎる場合は調整してください。

    DVDを使ったこの方法では「字幕」という強力な助っ人がいます。どうぞ留学せずとも本物の英語力を是非身に付けてください。

    参考文献
    Gilakjani, A. P. (2016). The Signifi cance of Listening Comprehension in English Language Teaching. Theory and Practice in Language Studies, 6(8),1670-1677.
    Hayati, A., and Mohmedi, F. (2011).The effect of fi lms with and without subtitles on listening comprehension of EFL learners. British Journal of Educational Technology, 42(1), 181-192.
    Napikul, S., Cedar, P., and Roongrattanakool, D.(2018).The Effects of Film Subtitles on English Listening Comprehension and Vocabulary.
    International Journal of Applied Linguistics & English Literature (IJALEL) 7(6),104-111.

    DVD『ハリー・ポッターと賢者の石』ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント

    植松先生より英語学習者へのメッセージ

    Where there’s a will, there’s a way.

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