在住外国人の妊娠・出産・育児を産官学連携で語学面から支援
母子健康手帳の副読本を英語で作成し外国人家族をサポート
在住外国人数が増加傾向にある千葉県東金市では、言葉が障壁となり、市の支援を十分に受けることができない恐れのある外国人を、サポートする環境作りが急がれています。中でも、外国人の妊娠届出者数の増加が顕著であったことから、東金市、医療通訳事業などを手がけるメディフォン株式会社、城西国際大学が産官学で連携し、妊娠・出産・育児に関する保健指導や、行政手続きなどの支援を実施しています。
支援の主な内容は、以下の3点です。
- 外国人向けの母子健康手帳の副読本「外国人のための東金市子育てガイドブック」(イラストを添え、やさしい英語・やさしい日本語で解説)を作成し、2021年3月末に発行する
- 外国人家族およびそのケアを担う保健師の困りごとを聞き取り、その結果を地域の保健医療サービス・教育・研究に反映する
- 副読本に掲載した英文や単語を、メディフォン社の機械翻訳アプリシステムに反映し、外国人とのコミュニケーションに利用する
このような連携が実現したのは、18年、同大学看護学部生のグループが、国際学生会議において発表を英語でする際、メディフォン社に対し、通訳などの確認依頼を行ったことに端を発しています。その後、20年度より市が同社の機械翻訳アプリを導入したことから、三者の連携へとつながりました。
国際大学である強みを生かしやさしい英語とやさしい日本語に翻訳する
母子健康手帳の副読本作成に関しては、城西国際大学が中心となり実施。東金市における助成金などの制度に関する部分の翻訳と、乳児から6歳までに行うワクチン接種のスケジュール表を英語で作成しました。
「副読本の作成に先駆けて行った、保健師への聞き取りから、特に外国人家族に伝えるのに苦慮しているのが制度の部分だと知り、その翻訳から始めることになりました」と、同大学地域連携推進センター所長で看護学部教授の井上映子氏は語ります。
制度の翻訳に当たり、まず書かれている日本語自体を、国際人文学部の日本語教員がやさしい日本語に置き換えました。この際、保健師や福祉総合学部・看護学部の教員が、内容の理解に誤りがないかを並行して確認。その上で、看護学部の母子保健を専門とする教員が、やさしい日本語を英語に翻訳しました。最後に、語学教育センターのネイティブスピーカーの教員が確認し、精度の高い翻訳文を作り上げました。
一方、ワクチン接種のスケジュール表に関しては、福祉総合学部の学生が参加し作成。学生たちは、東金市の保健師や、日本で子育て中の外国人の講演を聞き、多文化共生社会における子育て支援の先行事例を調べ、自分たちにできる支援を検討した結果、ワクチン接種スケジュールを、分かりやすい日英併記の一覧表にまとめました。
今後の取り組みについて井上氏は、「保健師と外国人の会話の音声を収集して、頻出フレーズをやさしい英語・やさしい日本語に置き換え、機械翻訳に反映したいと思っています。また、より広域の自治体と連携して、外国人の子どもたちが、各地域で健やかに成長できる環境づくりを目指し、地域の国際大学としてできることを考えていきたいです」と語っていました。
外国人家族を支援する産官学連携の取り組みを契機に、同大学の取り組みは、更なる深化を見せようとしています。
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