2022年11月号

    TOEIC® Listening & Reading公開テスト 300回記念特別企画
    継続的なアップデートから生まれる英語能力の正確な測定力

    40年以上の月日を経て、TOEIC L&Rは、2022年8月21日の公開テストで、第300回を迎えることができました。第1回の公開テストが実施された1979年以降、ビジネスを取り巻く環境や、グローバルビジネスでの英語の使われ方に、大きな変化が生じています。TOEIC L&Rは、時代に即した英語コミュニケーション能力に対応するためのアップデートを行ってきました。本企画では、それらの変遷を具体例とともに紹介します。

    時代の変化を捉える調査を継続的に行う

    TOEIC L&Rは、日常生活やグローバルビジネスにおける、英語でのコミュニケーション能力を測るテストとして誕生し、第1回の公開テストが1979年12月2日に実施されました。以来、40年以上経過し、公開テストの実施回数が300回を超えた現在においても、テストの目的は当初と変わっていません。

    しかし、79年当時と比べれば、ビジネスを取り巻く環境も、グローバルビジネスシーンにおける英語の使われ方も、大きな変容を遂げています。各々の時代において「日常生活やグローバルビジネスにおける英語でのコミュニケーション能力」を正確に測定するためには、時代の変化に合わせて、テストの内容を変えていく必要があります。

    例えばビジネス環境の変化について言えば、79年当時の通信手段はFAXが主流でしたが、2000年前後からEメールが活用されるようになり、やがてチャットなどでのやりとりが普及していきました。一方、通信手段の変化やグローバル化の進展は、ビジネスシーンでの英語の使われ方などにも変化をもたらしています。

    その時々の時代のコミュニケーションの実態に即した英語能力を測定するため、TOEIC Programの開発・制作機関であるアメリカの非営利テスト開発機関ETSは、世界各地のビジネスの現場のコミュニケーション方法について継続的に調査しています。04年には、日本をはじめとした世界11カ国の機関・企業の協力を得て、働く環境の場で必要とされている英語能力を検証するためにサーベイを実施しました。その結果、実際のコミュニケーションで必要とされる英語能力を評価するために、より当時の実態に即した状況や設定をテスト上で再現することになりました。具体的には問題形式の一部を変更すべきであると判断し、TOEIC L&Rのリニューアル版での実施を、06年5月の第122回公開テストより開始しました。

    求められる英語能力の変化に対応し、問題形式を変更

    変更点の一部の例を挙げると(TOEIC L&Rの変遷 「2006年の変更」参照)、まずリスニングセクションにおいて、アメリカだけでなく、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの英語の発音についても採用し、発音バラエティを増やしました。これは、当時ビジネスのグローバル化とともに、多様な英語に触れる機会が増加していることに対応したものです。また会話問題や説明文問題では、従来よりも長めの文章を含むようにしました。これはIT技術の進展によってもたらされた、情報量の増加やビジネスにおける言語使用の場面を、より実際的に体現した例です。

    リーディングセクションでは、文章を読む場面において、1つの単語の意味を文脈の中から推測する長文穴埋め問題を新設。読解問題では、関連する2つの文章を読んで設問に答えるという問題を新たに取り入れ、関連する複数の文章を読みながら、情報を整理する力を測定することになりました。一方、従来設定されていた誤文訂正問題については、実際のビジネスシーンにおいては、文章の誤りを訂正するという機会はさほど多くはないため、廃止することにしました。

    06年におけるもう1つの大きな変更点としては、テストの開発・設計において、「エビデンス・センタード・デザイン」という最新の設計手法を採用したことが挙げられます。これは測ろうとしている言語能力を的確に測ることができる設問になっているかどうかを、裏付けとなるデータ(エビデンス)をもとに検証しながら、テストを設計していくというものです。これにより、受験者に対する受験後のフィードバックも、スコアの提示にとどまらず、詳細な情報提供を行うことが可能になりました。受験者にとっては、自身の英語学習の課題を把握するとともに、さらなる英語力の向上に向けた学習計画が立てやすくなりました。

    ただし、06年のリニューアル時では、10点~ 990点のスコアによる評価についての変更は行わず、また受験者の能力に変化がなければ、何度受験してもスコアは一定に保たれるという特長についても、維持することにしました。さらには公平性の観点から、特定の国や地域独自の言い回しや、特定の文化的背景への理解が必要な問題は、これまで通り出題しないことにしました。

    このように、日常生活やグローバルビジネスの場面で必要な英語能力を正確に測定する、というTOEIC L&Rの特長を維持するために、問題形式の変更をはじめとする様々な取り組みを行ってきました。

    テストの信頼性を保つためにアップデートを続けていく

    TOEIC L&Rは、16年にもリニューアルを行いました(TOEIC L&Rの変遷 「2016年の変更」参照)。06年からの10年の間に、スマートフォンやタブレットといった新たなデバイスが登場し、ビジネスにおけるコミュニケーションのスタイルにも変化が生じたからです。

    例えばリスニングセクションの会話問題では、3人以上の登場人物が、省略形を用いた発言を含んだ短いやりとりの会話をする問題を新設しました。実際の会話においても、一人ひとりが長々と発言するよりは、短いやりとりで会話が進むケースの方が一般的で、SNSを使ったコミュニケーションでは、さらにそうした傾向が顕著になっているからです。

    リーディングセクションでは、読解問題の中の2つの文章を読んで設問に答えるという問題とともに、新たに3つの文章を読んで設問に答えるという問題も追加されました。06年から比較しても、さらにより多くの英語の文章や資料を読みこなすことが求められるようになっている状況を反映したものです。

    TOEIC L&Rは、企業において海外赴任や昇進・昇格の要件、大学・短大では単位認定などに利用されています。これはTOEIC L&Rの信頼性が、企業や大学から認められているという1つの結果であると言えます。この先もグローバルビジネスにおける英語能力の指標として多くの皆様に活用していただけるように、 ETSでは、時代の変化に即したビジネスコミュニケーションの実態を定期的に調査していく予定です。

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