Special Interview
採用市場における英語スキルが広げる新たな可能性
コロナ禍における採用市場では、どのような変化が生じているのでしょうか。またその中において、語学スキルを持つ学生・第二新卒といった若手の求職者たちには、どのような可能性が広がっているのでしょうか―。日本最大級の就職・採用情報サイトを運営する株式会社マイナビで、雇用関連のリサーチを行っている栗田卓也氏に、近年の採用市場の動向と、語学スキルが広げる新たな可能性について話を伺いました。
採用状況は、コロナ禍前の水準まで戻っている
はじめに、企業の採用状況についてお話しします。まず転職市場に関しては、2019年頃まで多くの業界において人手不足感が強まり、企業は雇用を増やしていました。それがコロナ禍の影響でいったん落ち着いたもののすぐに回復し、現在はコロナ禍前とほぼ同じ水準にまで戻ってきています。
新卒採用は、中途採用よりも社会的影響を受けにくく、実はコロナ禍でもそれほど大幅な減少は見られませんでした。学生に人気のある航空や旅行といった一部の業界は雇用を抑制しましたが、その分、ITや医療・福祉、流通・小売業界などでは採用を拡大しており、結果として内定率も横ばいで推移し、ここ1年では上昇に転じています。
就職活動においてコロナ禍の影響で生じた大きな変化の1つが、オンラインを利用した会社説明会や採用面接の普及でした。コロナ禍で直接対面が難しくなりやむを得ず導入に踏み切った企業が多かったものの、やってみると人事担当者・求職者双方にメリットがあり、急速に浸透した感があります。さすがに最終面接などは今も対面で行う企業がほとんどですが、説明会や1次面接など、採用過程のいずれかでオンラインを活用している割合は6、7割に上ります。
その結果、都市と地方の距離的な不均衡はかなり是正されました。従来、地方の学生の就職活動には10万~ 15万円ぐらいの費用がかかっており、その大半が旅費交通費でした。それが今は6万~ 7万円程度まで減少し、移動にかかる時間も軽減されています。またオンラインで会社説明会に参加するなど都市部の学生と同じ情報にアクセスできることから、地方の学生にとっては、以前より都市部への就職のチャンスが増えています。反対にコロナ禍で働き方を見直して地元就職(Uターンを含む)を希望する学生は2年連続で増加していますが、あくまでも地方企業も視野に入れて検討してみようという印象です。地方企業からすると、これまで以上に都市部の企業と競争する状況になると言えるのではないでしょうか。
海外企業への就職という新しい可能性が生まれている
少し視野を広げてみると、Webによって距離という物理的な障壁が低くなり、就職先が国内の大都市か地方かの二択だけではなく、海外企業への就職という可能性も広がっています。海外企業では、国籍や地域にとらわれず多様で優秀な人材をグローバルに採用しており、日本にいながらにして海外企業の入社面接が受けられる環境も整いつつあります。また、リモートワークをはじめ働き方も多様化し、働く場所に縛られる必要もなくなってきました。
ただ今のところ国内求職者の間で、グローバル志向が特に高まっているという動きは見受けられません。逆に、企業選択に関する学生の意識調査では、「海外で活躍したい」という回答が2000年頃には7%前後あったのが、今は3%ぐらいに下がっています。社会情勢が不安定な中で冒険したくない、あるいは、海外に対して昔みたいな憧れがなくなり、あえて国外に行くまでもないと考える人が多いのかもしれません。
しかし実際には今、語学ができて何らかのスキルや経験があれば、OECD(経済協力開発機構)の平均賃金国際比較で示されている通り、国内よりも海外企業に雇用される方が、年収ベースでより高い報酬を得られるチャンスが増えているのです。そうした新しい可能性の扉が開いているという事実は、もっと広く認識されてもいいのではないかと思っています。
一方、日本国内の経済は、少子高齢化で今後は市場も人材も先細りになっていくと思われます。そのため日本のドメスティックな企業も、これからは多かれ少なかれ国際社会と関係していかざるを得なくなっていくでしょう。海外のマーケットを開拓したり、あるいは海外から人材を受け入れたり、日々の業務に語学が求められる機会は増えると予想されます。
一時期、IT系の企業を中心に社内公用語を英語にする企業が出始めました。国内だけでは十分な人材がそろわないため、アジア各国をはじめとした海外の優秀なエンジニアの採用を積極的に進めています。そうなると今後、社内でのコミュニケーションに、世界共通言語である英語が必要とされるケースも増えてくるでしょう。
語学スキルがあると選択肢が広がる
もう1つ、最近の就職活動の特徴としてインターンシップがかなり定着してきました。「学生が選ぶインターンシップアワード」という表彰制度があり、その選考委員として各企業のプログラムの中身を見ているのですが、「海外の方たちと共同で自動車の動作制御機能を考えて作る」「アジアに行って現地でマーケティングを行う」といったように、日本の大学生向けのインターンシップに、海外での取り組みを含めたものがあります。グローバルに仕事をする企業ではそうした形が増えていて、学生はインターンシップのタイミングから、語学スキル、特に世界共通語である英語スキルの必要性を認識することもあるようです。
それでは、日本の企業がどのような英語のスキルを求めているのかというと、採用時においては個人が今持っているスキルよりも、その人の人柄やポテンシャルを重視する傾向があります。そのため、採用時には特に高い英語スキルを求めないことも多いようです。必要になったときに後から勉強すればいいというスタンスで、その背景には長い目で社員を育てるという日本的な雇用システムがあります。
ただし、今後は海外のスタンダードであるジョブ型の雇用が大手企業を中心に少しずつ増えそうです。そこで語学のスキルなどを明確に提示する必要も出てくると思います。いずれにせよ、自身の英語スキルの到達点を確認するためにも、またそれを証明する客観的指標としても、世界共通の語学資格を有しておくことは、自分のキャリアの可能性を広げるために重要な要素になると思います。
今私が個人的に注目しているのは、AIによる自動翻訳の精度がどこまで上がるかということです。自動翻訳の技術は、驚くほどのスピードで進化しています。いずれは言語の違いが障害となっている様々な場面で、AI翻訳が大いに役立つだろうことは間違いありません。ただし、自動翻訳が万能かというと決してそうはならないでしょう。言葉は、個人を体現する要素です。ビジネス上のコミュニケーションにおいても、たとえ拙くても自分の言葉で思いを語った方が相手の信頼を獲得できるものです。その意味でも、英語が話せることはやはり大きな強みになると思います。
どこで、どのように働くかという選択肢が増え、特に語学スキルがあれば、海外企業にしても国内企業にしても、可能性の幅は大きく広がってきています。求職者の皆さんには既存の価値観にとらわれず、もう1つ広い視野に立って、自分の能力を生かせる仕事を見付けていただきたいと思います。
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