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2023年7月号

「エア会話」や「実況中継」といったアウトプットの学習を取り入れる

通訳者

田中 慶子氏

ブロークンな英語も個性として認められる

ここ数年、英語を母語としない人たちの英語力に対するネイティブスピーカーの意識が、様変わりしてきていると感じています。私が英語の学習を始めた頃は、いかにネイティブスピーカーに近づくかを目標とし、ネイティブスピーカーからも、自分たちと同レベルの流暢な英語を話してほしいという思いが感じられました。しかし最近では、多様性を尊重する意識が広がり、英語を母語としない人たちの少々ブロークンな英語も、個性の1つだと捉える人が増えています。

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これは、国際会議に通訳として参加したときに、ある国際的な企業の日本支社長として赴任した、アメリカ人の方から聞いたエピソードです。

赴任当時、その方は全く日本語が話せなかったので、秘書も周囲のスタッフも、英語が話せる日本人を選んだそうです。ある日、外出予定を確認していると、秘書に“You'd better leave here by two o'clock.”と言われて憤慨したといいます。英語で“You'd better”というのは、かなり上から目線な印象を与えるのですが、それが秘書だけでなく、他の日本人スタッフも同じ言い方をするので、「日本人は礼儀正しいと思っていたのに、言い方が失礼だ」と感じたそうです。しかし、あるとき「これだけ多くの日本人が“You'd better”を使うのには、何か理由があるに違いない。きっと、英語の意味を誤解して覚えたのだ」と気付き、考えを改めたそうです。

多くの日本人は、学校で“had better~”は「~した方が良い」という意味だと習ってきましたが、ネイティブスピーカーにとってはかなり上から目線の言い方で、例えば、親が子どもを叱ったり、目下の人を厳しく注意したりするときなどに使うのです。

その方は、彼らの英語力について理解を示し、「ネイティブスピーカーである自分に対して、英語が母語でない人が、一生懸命に学んだ英語を使って話してくれていることに、私はもっと寛容にならなければいけないと思った」とおっしゃっていました。

英語はあくまでコミュニケーションのツールの1つです。通訳の仕事を通して実感しているのは、これからは、ネイティブスピーカーのような流暢さではなく、自分の思いを伝えること、そして、文化や言語が異なる相手への理解を重視しながら、英語力を身につけていく必要があるということです。

アウトプット学習のお勧めは「エア会話」と「実況中継」

「日本人は英語でのコミュニケーションが苦手」というイメージがあります。一方で、私は技術的な意味での日本人の英語力は、国際的に見て高い水準だと思っています。今や小学生から英語を習う時代ですし、社会人になってからも学び続ける人がたくさんいますから、英語力が高いのは当然だといえます。とはいえ、努力して身につけた英語の知識も、経験を通して使わないとスキルにはなりません。

私が英語学習者の方に「どんな学習をしていますか?」と質問すると、たいていは「英語のドラマを見ています」とか、「YouTubeで英語を聞いています」という答えが返ってきます。インプットはそれで良いのですが、できることならアウトプットの学習を取り入れてほしいのです。理想は英語で会話をすること。例えば、英語の学校に行くとか、英語を話す友達を見付けることも1つの手ですが、それが難しいという人もいるでしょう。

そういう人にお勧めしたいのが、英会話ならぬ、「エア会話」です。つまり、目の前に英語を話す相手がいると想像して、1人で架空の会話をするのです。

例えば、英語で「夏休みはどんなことをするのですか?」と聞かれたら、どう答えよう? と考えてみる。頭で考えるだけでなく、実際に発話してみることも大切です。

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「エア会話」をやっていて、分からない言葉が出てきたら、すぐに調べてください。それを繰り返すことで、ボキャブラリーを会話の中の文脈で覚えることができるため、参考書などで英単語を丸暗記するより、効率よく定着します。

また、私が通訳になりたての頃によく行ったのが、目の前に見えるもの全てを英語で実況中継していく学習法です。

例えば、駅に向かいながら、“station”でしょ、“ticket”、そして“gate”、“train”……としゃべってみる。簡単な単語ばかりのようですが、やってみると、意外な言葉が思い出せないことがあります。英語の実況中継はいわば、コミュニケーションのウォームアップです。自分の頭の中の引き出しから、ボキャブラリーを取り出しておくことで、いざというときに役に立ちます。

また、英語で日記をつけるなどのライティングも、アウトプットの学習にお勧めです。

目標設定のハードルを下げ、無理なく学習を続ける

学習がなかなか続かない、あるいは、思うように英語力が伸びなくて途中でやめてしまった、という話をよく聞きます。こうした挫折の理由の1つに、学習目標が高過ぎることがあると思います。

私の周りには、「英語学習のためにとりあえず、英語のニュース番組を見始めました」という人が非常に多いのですが、ニュース番組は何よりスピードが速いですし、国際機関の名前や外国の地名など難しい単語がたくさん出てくるので、特に英語学習初心者にはお勧めできません。

最初に難しい内容の番組を見てしまうと、理解できないことが多くてつまらないと感じる。すると、当然、学習への意欲は下がってしまいます。ちなみに、私が英語を学び始めたときの教材は、子ども向けのディズニー映画やセサミストリートで、楽しみながら英語を覚えていきました。

英語学習を長続きさせるこつは、最初は目標のハードルを低く設定すること。そして、学習の仕組みを考えることです。

英語の学習を毎日3時間やろうとしたら、途中で無理が生じるかもしれませんが、1日5分ならできそうですよね。手始めに2週間と期間を区切って、1日5分の学習を続け、それができたら、今度は1日10分、15分と時間を増やせばいい。2週間やって続かなければやり方を見直せばいいのです。

例えば、毎日、朝ごはんを食べてコーヒーを飲んだら5分、スマートフォンで学習しよう。こんな風に日常生活の中で習慣化すれば、無理なくできる学習を続けられるでしょう。また、英語を学ぶバディを見付け、学習状況を報告し合うのも良いでしょう。

チャレンジしたいTOEIC® Speaking & Writing Tests

コミュニケーションの基盤となる知識は、非常に重要です。そういう意味では、TOEIC Programの受験に向けた学習は英語の知識の習得につながりますし、「TOEIC Programの学習で身につけた知識をどう活かそう?」と、自分の将来を思い浮かべることは、英語を学習する大きなモチベーションになると思っています。

また、コミュニケーションはアウトプットがあって成り立つものですから、できれば、TOEIC L&Rだけでなく、アウトプットする力を測るTOEIC S&Wにチャレンジしてほしいと思います。

TOEIC L&Rのスコアを採用や人事評価の基準として取り入れている企業は多いと聞きますが、今後はTOEIC S&Wのスコアで、英語のアウトプットがどれだけできるのかという指標を取り入れたら、日本人の英語学習の方向性も大きく変わるのではないかと考えています。

いずれにせよ、自分は英語力を身につけて何がしたいのか? 英語を話す目的は何なのだろう? と考え、学習の先にある目標を明確にすることが、英語でのコミュニケーション能力の向上につながると思います。決して背伸びをせず、自分に合った仕組みで学習を続けてほしいですね。

そして、英語を母語としない人たちのブロークンな英語に対して寛容になってきている今がチャンスだと思いますので、是非、グローバルな舞台でのコミュニケーションに、チャレンジしていただければと思っています。

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