2024年11月号

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    働き始めた頃は英語が得意ではなかったと語るスポーツ通訳者の佐々木真理絵さん。
    英語力を磨き、現在のキャリアを築いた道のりと仕事に対する熱意をうかがいました。

    苦い経験を乗り越える中で
    少しずつ成長していきました

    スポーツ通訳者のキャリアをスタートしたのは、プロバスケットボールチームからです。実は、面接ではあまりいい反応を得られなかったのですが、その後、試合を見に行ったときに熱意をアピールし、なんとか採用になったという経緯があります。

    マネージャー兼通訳者というポジションで、本来であれば通訳業についても期待されていたはずなんですが、最初は英語力がまだまだ足りていませんでした。

    チームでは、掃除をしたり、選手のお水の準備をしたりしつつ、まずは簡単なインタビューを任せてもらうといった働き方で育ててもらいました。学びながら、落ち込みながら、それでもがんばるぞと奮起しながら……という日々でしたね。

    その後、プロバレーボールチームの通訳者に転職したとき、大きな壁にぶつかりました。バレーボールの知識がないことをお伝えして就職しましたが、まず専門用語がわからない。言葉がわかっても、目の前の人に“伝わるように”話すとなると、それはまた別次元のことです。最初の頃は練習中、外国人コーチの言葉を一言も訳せずに終わるということもありました。恥ずかしいと思う余裕もなく「もう一度話してください」と食い下がり、伝えられる言葉を増やしました。走りながら学んできましたが、振り返れば道ができていて、今につながっているような気がします

    プロの通訳者として求められるのは
    丁寧な準備とその場に応じた柔軟性

    働くうえで大切にしているのは、事前準備です。例えば、会話に専門用語が5つ出てきたとして、すべてわからなければお手上げです。でも3つわかるなら、前後の文脈からなんとか推測できる。なので、できるだけ知識を増やして現場に向かいます。語彙力を増やすという勉強方法は、学生時代から変わらないですね。

    2019年に日本でバレーボールワールドカップが開催されたとき、私はオランダ女子チームの担当になりました。監督や選手の記者会見をすべて通訳しましたが、何週間もかけて準備しましたね。チームの歴史や戦歴、監督と各選手のプロフィール、直近の試合には誰が出場して、どんな戦術を採用したのか。国によって英語のアクセントも異なるので、監督のインタビュー動画を探したりもしました。それはもうマニアのように(笑)。

    もう1つ大切にしているのが、その場に合わせた仕事をすること。スポーツといっても、世界大会、親善試合、学生の教育プログラムなど目的は様々です。学生チームを日本に迎えるなら、スポーツ以外の学びを得るチャンスも大切にしてほしい。食事の場面でも、ただメニューを訳すのではなく、「日本にはこういう文化があるんだよ」と一言添えるだけでも、将来の糧になるんじゃないかと期待しています。選手同士の交流では、あえて私がサポートしないこともあります。つたなくても自分の言葉が通じたらうれしいですよね。ときには一歩引くことも必要です。

    通訳者になって約10年。様々な現場を経験するなかで、こうした考えに至ったと感じています。

    「夢は簡単には叶わない」
    だから簡単にあきらめないで

    佐々木真理絵さんのキャリア「これまで」「これから」

    通訳者というと、帰国子女がなるものだとか、とにかく英語がパーフェクトというイメージがあると思います。私は、英語は好きだったものの、大学時代に1年間の留学経験があるだけ。当時から、正規留学しているまわりの日本人学生の英語力は比べものにならないくらい高かったですし、通訳者として働き始めてからも、実は自分のバックグラウンドが長い間コンプレックスでもありました

    それが吹っ切れたのは、結構最近のことです。英語が得意ではなかったにも関わらず、通訳者として着実にキャリアを積めていることが、自分のアピールポイントだと気づけたんです

    実は、仕事に余裕ができたコロナ禍に、TOEIC S&Wを受けてみました。自分の実力を客観視するというだけでなく、テストのための勉強が、通訳の際にどう伝えたらいいのかという話の組み立て方を学ぶのに役立ちました。

    今、力を入れているのは、通訳者になりたい若い人たちとスポーツ業界をつなぐ支援活動です。最近、スポーツ通訳をしたいという人が増えているのですが、「英語力がないから」と、一歩踏み出せなかったり、現場に出てすぐ自信を失ったりして、あきらめてしまう人が多いと感じています。でも、あきらめるのが早すぎる! 私もいまだに仕事の帰り道は、「ああすればよかった」と反省ばかりしています。今日は完璧、と満足できる日はきっと来ません。百点満点の通訳はないからこそ、勉強していくんだと思います。

    スポーツ通訳者を目指す人には「私もいっぱい失敗したけど、夢を叶えてがんばってますよ!」って働く姿を通して伝えたい。そんな気持ちになれたことも、自分の成長かなと思っています。

    スポーツ通訳者
    佐々木 真理絵 さん

    英会話スクール勤務を経て「好きなスポーツと英語を仕事にしたい!」とスポーツ通訳の道へ。チーム専属通訳を務めたあと、現在フリー。日本人選手の海外遠征に帯同するほか、世界大会などに来日する選手の通訳、滞在中の生活サポートなども行っている。

    スポーツ通訳者 佐々木 真理絵さん

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