信頼性と公平性が高い継続的な評価が、英語の習得に貢献する

航空自衛隊

WEBサイト
22_logo_img_3 22-01_img
航空自衛官全員の英語力を高め向上心溢れる組織をつくる
航空自衛隊 航空幕僚監部 人事教育部 教育室
一等空佐 計画班長 栗秋 健士氏

「教育・補職・自己研さん」を3本柱として航空自衛官を育成

航空自衛隊は、日ごろの教育訓練をはじめとし、災害派遣や他国との防衛交流なども通じて、平時から有事に至るまで、一貫してわが国の空の平和と安全を守っています。先端技術を導入した装備を駆使する集団であるため、「教育・補職(具体的な職務の担当を命じること)・自学研さん」を3本柱とした人材育成によって、入隊から退官するまで防衛に関する専門知識や能力を向上し続けるとともに、英語のスキルアップに対しても前向きに取り組んでいます。

独自の英語技能検定で抱えていた課題をTOEIC® L&Rで解決

22-02_img

航空自衛隊は1954年の発足当初、そのノウハウをアメリカ空軍から学んでいたため、幹部自衛官を中心に軍事用語を含む英語教育を継続的に行っていました。1969年には、「級」を設けた航空自衛隊独自の英語技能検定制度を構築。以降、英語が必要な職種や自学研さんに励む希望者に対して、検定試験を実施してきました。

ただ、この英語技能検定では、聴取、読解、作文といった科目ごとに「級」を付与していました。「級」によって試験内容を変え、科目ごとに試験会場を変更していたため、問題作成や全国の基地ごとに試験会場の確保・準備など運営側に多大な労力を必要としていました。また、試験内容は敢えて軍事用語を含む問題としていたため、受験者の総合的で客観的な、そして純粋な英語力を測ることができていないのではないかという懸念もありました。

これらの課題を解決するため、独自の英語技能検定を廃止し、代わって1998年より上級の英語学習者向けにTOEIC Listening & Reading Test(以下、TOEIC L&R)の団体特別受験制度(IP:Institutional Program、以下IPテスト)を導入。その結果、同一問題を同じ会場で一斉に受験することが可能となり、試験管理の手間を大幅に削減することができました。加えて、独自に作成した問題では、内容を変えた場合に公平な評価ができているのかといった不安がありましたが、TOEIC L&Rは信頼性が高く公平性があるテストのため、総合的で客観的な英語力の測定が可能になりました。

2010年には、TOEIC Bridge Listening & Reading Tests (以下、TOEIC Bridge L&R)IPテストも導入。初級・中級の英語学習者に対しても適切な測定が行え、幅広い層の英語力を測ることができるようになりました。以降、英語を必要とする職種や、自学研さんの英語学習者たちに向けて学習の機会をつくるとともに、TOEIC L&R とTOEIC Bridge L&R の両軸でテストを実施。そのスコアは個人の英語能力を図る指標としてだけでなく、組織全体の能力の把握や人選の基準に用いたりと、様々な用途で活用しています

航空自衛隊でも急務となった英語力の向上

ここ10年ほどのことですが、航空自衛隊において英語を使用する環境が大きく変化してきており、海外勤務や外国との合同訓練、留学の機会が増えるなど、英語でのコミュニケーション能力が求められる場面が大幅に増加しています。また近年は特に、海外の装備品を使用する頻度が高まり、英語で書かれたマニュアルを迅速かつ正確に理解していくといった英語能力が必要不可欠になっています。一般企業・団体などと同じように、航空自衛隊においても全自衛官の英語力の向上が急務となっているのです。海外のみならず国内においても、また幹部のみならず准曹士においても英語が必要となっています。

22-02_img

米国マクレガー射場における高射部隊実弾射撃訓練

英語力を高めていく方法を模索する中、2019年から4年間にわたり、全航空自衛官を対象にTOEIC L&RとTOEIC Bridge L&Rのトライアルテストを実施したところ、スコアがアップしている隊員が少なからずいることが分かり、毎年データを取得し、個人単位や職種単位、部隊ごとに分析していくことの重要性を改めて認識することができました。

また、部隊ごとで英語力を競う英語競技会を2021年に実施しましたが、その年のTOEIC L&RとTOEIC Bridge L&Rのスコアは全体的にアップしたものの、翌年には、競技会前のスコアに戻ってしまいました。このことは英語学習を行えばスコアが一時的にアップするものの、英語を習得していくためには組織的で継続的な取り組みが必要であることを実感する契機となりました。


このような試みを通し、限られた予算の範囲で最大限の学習効果を生み出していくための方法を考えた結果、英語学習を個人の裁量に任せるのではなく、組織的に教育と訓練によって学習していく環境を創出しながら、継続的に英語力を測定していくことで、習得へとつなげていくことが重要であると考えるようになりました。

約4万人の英語力を向上させる英語教育施策の改革を実施

そこでこれまで上級者に集中投資であった英語教育施策の改革を行い、初級の英語学習者から上級者まで、各レベルに応じた英語教育の機会を付与し、英語を習得するための努力を続けていく組織文化をつくりあげていくことにしました。教育を受けられる環境の差を低減するため、オンライン学習に力を入れ、一人ひとりに合った英語学習のサポートも行い、英語力の底上げを図っていきたいと考えています。

そのためにまずは2025年度より、TOEIC L&RとTOEIC Bridge L&Rの対象者を航空自衛隊における英語の訓練対象者である航空自衛官全員に拡大し、受験頻度も3年に1回から毎年受験に変更。評価がぶれず、正確な英語力を測ることができる信頼性が高いテストを用いることで、一人ひとりの英語力を継続的に測定し分析していきたいと思っています。

特にTOEIC Bridge L&Rは、身近なことを題材にしているため親しみが持て、難易度もTOEIC L&Rに比べれば高くないので、初級の英語学習者たちが、「学習すれば問題が解けるようになる」ことを実感し、スコアが上がっていくことでモチベーションもアップしていくのではないかと期待しています。

一方、英語での交渉などが求められる上級者に対しては、TOEIC L&Rに加えてTOEIC Speaking Testも導入するなど、スピーキング力の向上もさらに図っていきたいと考えています。現在でも他国とのシンポジウムや高度な交流・協力の場などでは、軍事用語や工学用語のみならず、アカデミックな英語力も求められていますし、より高いファシリテーション力も必要になってくると感じています。今後ますますハイレベルな英語力が必要になってくることを想定し、まずは全体の基礎的なレベルを向上させ、必要に応じてより高度な学びを取り入れていきたいと考えています。

受験方法に関しては、それぞれ働き方が異なる隊員が全国各地にいるため、場所や時間を問わず、全員が平等に受験することができ、試験管理や能力管理の負担やコストがより抑えられるIPテスト(オンライン)を採用したいと考えています。ただ、人事に関わる判断基準の1つとしてスコアを活用する場合は、不正防止のための「AI監視サービス」といったことも考えていきたいと思います。

● 各課程で実施する試験の種類
slide-01

● 英語技能検定の判定基準
slide-02

英語学習を通じて「向上心」溢れる組織を築きたい

最終的には、航空自衛官一人ひとりが英語を習得していくとともに、豊かな人生を送るための源である「向上心」も磨きをかけていってほしいと思っています。英語学習に励んでいる方たちは、向上心が溢れていると私自身が感じていますし、そういう人たち同士は自然と親しくなり、お互い切磋琢磨し合える素晴らしい仲間になっていくのではないでしょうか。

今回の英語教育施策の改革が、向上心の輪を航空自衛隊全体に広げ、自衛官一人ひとりが人生の豊かさを感じていく、1つのきっかけになればと考えています。

(2024年3月取材)

導入の目的をお教えください
  • 英語学習を行いながら、信頼性が高く公平性のあるテストを継続的に受験していくことが、英語の習得に繋がると考えています。
  • 初級の英語学習者から上級者に至る幅広い英語の能力を測定するため、TOEIC L&RとTOEIC Bridge L&Rの2つの方式を採用しています。
活用方法を教えてください
  • 海外で勤務する隊員の選出など、人事に関わる判断基準の1つとして利用しています。
  • 一人ひとりに合った英語学習をサポートしていくための資料として活用しています。
  • TOEIC Bridge L&Rも採用して、初級の英語学習者のモチベーションアップを図っています。

導入メリットを教えてください
  • 信頼性が高く公平性があるテストのため、総合的で客観的な英語力の測定が可能と考えています。また、テストの難易度が安定しているため、得点の伸びが個人の能力向上の分かりやすい指標となっています。
  • IPテストの採用により、テストの作問、採点業務が不要のため、テストに関わる運営の負担が大幅に減少しました。
  • さらに将来的にIPテスト(オンライン)を導入することができれば、テスト会場を準備する必要がなく、働く時間や場所が異なる隊員であっても平等に受験することが可能になると考えています。
ページの上部に戻る/Back to TOP