審査員 桜美林大学 名誉教授 馬越先生
―本コンテストの印象を教えてください。
これまで少しずつテーマが変更されてきましたが、「異文化」というキーになるテーマを変えずに続けていることが素晴らしいですね。受賞者だけでなく参加した生徒の多くがこれを機に成長して社会に出ていきますので、社会貢献のひとつにもなっているのではないかな、と思います。また、エッセイを書くということは、地味な作業です。スピーチの場合は話し方や身振り手振りなども含めて表現することができますが、ライティングの場合はそうはいきません。ただそこに書いてある内容だけで勝負する。書き手の体験に基づいたオリジナリティのあるストーリーなのか、そこに書き手の意見があるのか、そういったことが問われるので、ごまかしがききません。厳しいからこそ、エッセイコンテストには大きな価値があると思います。
―審査をする際に大切にしているポイントを教えてください。
私の場合は、細かい文法はチェックせずに一気に読んで、「面白かった」と思ったものが良いエッセイです。文法に関しては、大きく間違えていたら読んでいるときにそこで引っかかってしまいます。つまり、最初から最後まで一気に違和感なく読めるということは、文法にさほど問題がないのだと思います。構成でいうと、最初の一行目はとても大事ですね。引き込まれる文章かどうか。そして、オチがわからずに読みすすめられるかどうか。「どこかで読んだことあるな」と思わせない独自の内容であることも大事です。さらに、エッセイで書き手が自分の人生を表現豊かに語っているかどうか、も重視しています。
―第1回から審査をされてきて、高校生のエッセイの内容に変化はありましたか?
内容の幅が広く深くなってきたように思います。例えば、これまで宗教の話が出てくるエッセイはなかったように記憶していますが、最近ではキリスト教やイスラム教について触れている作品がいくつかみられました。話題の幅が広がったことに関しては中学生や高校生の海外留学が増えたことなどもあるかと思いますが、渡航経験のあるなしに関わらず、現在はインターネットで多くの情報を入手できるので、トピックの内容について深く掘り下げて考えられるようになったのではないでしょうか。
―高校生が英語でエッセイを書くことの意義を教えてください。
高校生の時期というのは感度がマックスになっているので、さまざまな事柄が鮮烈に印象に残ります。その時期にしか得られない体験や考え、気持ちを文章に書いて伝えるということはとても意味のあることではないでしょうか。エッセイコンテストでいえば、テーマに合うトピックを探すことから始めますが、ユニークなトピックを見つけるには日常的にアンテナを張り巡らせて感度を鋭くして情報をキャッチしなければなりません。いろいろなことに好奇心を持ち、わからないことがあれば聞いてみる、といった習慣を身につけることに役立ちます。もうひとつ、エッセイを書くということは、日記とは違うので、独りよがりの文章になってはいけません。自分の中から湧き上がることを相手に伝わるように書く、というトレーニングになります。「相手に伝わるように」というのはコミュニケーションの核となるものですから、エッセイを書くということは話す能力を伸ばすことにも役立ちます。
―高校生のうちに英語力を身につけることは、なぜ重要だと思われますか?
高校生の間に英語に対する苦手意識を持たず普通に会話ができるレベルの英語力を身につけることが大切だと思います。最近ではパソコンやスマホを使えないと不便なのと同じで、英語ができないと不便になりました。英語はパソコンやスマホと同じ、ひとつのツールなんです。そして何よりも、英語を勉強するということは異文化を知るということなので、視野を広げることにつながります。何か伝えたいと思った時に日本語しかできなければ日本の人にしか発信できませんが、英語ができれば世界中の人に発信ができます。世界が広がりますし、より人生を楽しめるようになると思います。
―本コンテストに参加する高校生にメッセージをお願いします。
自分の可能性を信じて、自信を持って人生を歩んでほしいです。エッセイコンテストへの参加が、その助けになるのではないでしょうか。また、私自身は人生において人との縁がとても大事だと思っているので、本コンテストに参加することで生まれた先生との縁や、受賞者であれば表彰式に参加して出会った同年代の人々との縁などを、これからの人生に生かして、良い縁をつないでいっていただきたいですね。
(本記事の取材は2023年1月に行いました。)
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