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多様性のなかで互いから学ぶリベラルアーツ教育を実践

ハーバード大学の寮生活での出会いと受けた刺激は私の財産だ──。寮という多様性あふれる人々が暮らす環境で多くを学んだHLABの代表を務める小林亮介さんは、日本の高校生に国境、地域、学校、世代などを超えて互いに学び合える場を提供したいと考えた。その取り組みは、彼らの進路や将来のキャリアを拓くと同時に、従来の教育環境を変化させ、新たな進路選択のあり方をも切り拓く可能性を秘めている。小林さんが広めていきたいリベラルアーツ教育とはどのようなものだろうか。

    プロフィール
    小林 亮介(こばやし・りょうすけ)
    1991年東京都生まれ。高校時代にオレゴン州への1年間の交換留学を経て、ハーバード大学に入学。19歳でHLABを創業し、卒業後の2014年に法人化して代表に。日本の学生に、レジデンシャル・リベラルアーツ教育のプログラムの提供、海外留学奨学金、先進的教育寮の企画・運営などを行う。

    この記事は「GM特別企画」から「Global Frontline」に移行しました。内容の変更はございません。

    留学を決めたのは先輩の「楽しかった」のひとこと

     小林さんがHLABの活動を始めたのは、高校時代に交換留学を決意したきっかけが原点となっている。
     都内の私立中高一貫校に通っていた中学2年生のときに、家族旅行で英国・オックスフォードを訪れた。街のあちらこちらに美しいカレッジが点在する学園都市の佇まいは、小林さんの心を打つのに充分だったようだ。海外への憧れがふくらみ始めたころに、米国・シアトルから帰国したクラスメートがいた。留学という選択肢が頭をかすめていたものの、当時は不安のほうがまさっていたため、その先輩に、単刀直入に「留学生活は怖くなかった?」と聞いてみた。すると「本当に楽しかった!」という気持ちが入った力強い答えが返ってきたという。
     「そのひとことで、留学する気持ちが固まったんです。留学についていろいろ調べてもなかなか決心がつきませんでしたが、彼の言葉が背中を押してくれた。留学経験をした身近な人の言葉というのは、なんてパワフルで価値をもつものなのだろうと、このとき実感しました。本やインターネットからたくさんの文字情報を得てもなかなか決心がつかなかったのに、身近にいる経験者の言葉やアドバイスを聞くことで行動に結びついたのです」
     そして高校2年生のときに、米国・オレゴン州の高校に留学、1年を過ごした。

    人と違ったアプローチで決めた進路

    一般社団法人HLAB 代表理事小林亮介氏

    高校時代の交換留学後、ハーバード大学で寮生活を体験。その多様で互いに学び合える学寮生活を中心としたリベラルアーツ教育を日本で実践できないかと、HLABの活動をスタートさせたと語る小林さん。

     日本の高校での進路相談といえば、高校の先生から指導をうける人が多い。同級生に相談する人もいるだろうが、均質な環境にいる人達から得る情報や選択肢は限られており、そこから自分のやりたいことや将来の道をはっきりと決められるかどうか、難しい場合もあるだろう。しかし、小林さんの進路相談はそれとは違っていた。

     1年間の米国留学を終えて日本に戻ると、周囲は一様に大学受験モード。受験勉強に着手していなかった小林さんは、「開き直って」、自分の将来についてじっくりと向き合うことにした。大学で何を学びたいのか、それをどういうキャリアにつなげたいのか、人生を通してやりたいことは何か──。
     「もともと国際関係学に興味があったのですが、地元の一橋大学はその分野に強かった。そこで当時、国際関係論を教えていらっしゃった大芝亮先生にお話を伺いに行ったのです。日本の社会科学の先生の多くが海外の大学で博士号を取得していることについて伺うと、『海外の大学のほうがレベルは高いから、チャンスがあるなら早いうちに行った方が良い』とのアドバイスをいただきました。ちょうど、1年程度の交換留学では英語力に不安を感じていたこともあり、なるべく早く行くことにしたのです」
    そこから、アメリカの大学も視野に入れて受験勉強を開始した。留学の機会が多い一橋大学に挑戦し、合格。入学した直後に、ハーバード大学からも合格の知らせが届いた。
     「一橋での大学生活をスタートさせたばかりで、刺激的な環境で勉強していましたから、正直迷いました。それで、再び一橋の先生に相談したのです」
     教授からの答えは、「とりあえず、行ってきなさい。駄目だったら、いつでも帰ってくればいいから」。そこで腹を決めた。こうして再び米国へと旅立つ決心をしたのだ。

    互いに刺激を与え合う、ハーバードの寮生活

    ハーバード大学1年生のときに「Canaday寮」で共に過ごした仲間と食事会

    ハーバード大学1年生のときに「Canaday寮」で共に過ごした仲間と、卒業前最後の食事会。

     ハーバード大学の学生は、そのほとんどが大学の寮で暮らす。これは、ハーバードの教育を語るうえで重要なカギとなる。実際にハーバードでは、ミッションとして「多様な人が集まりお互いから学ぶ、居住空間を作る」と掲げている。
     「ハーバード大学の最大のリソースは『人』であり、そのリソースを活用するよう学生を誘導します。あらゆる情報、新しい発想やモチベーションが『人』を通して入ってくる。また学生1人に対してアドバイザーが5人つくなど、学生への人的サポートがとても手厚い。同時に、教授や大学院生、研究者達との世代や分野を超えた交流の接点が生まれるような仕組みも非常に整っています。その最たるものが寮だと言っていいでしょう」
     ハウスと呼ばれる寮には、国籍や文化、専攻や学年が異なる学部生達が、アドバイザーの大学院生、教授とともに暮らしている。食堂は24時間開放され、深夜の1時、2時でも宿題やレポートに取り組む学生達の姿が見られる。

    お世話になった寮監と寮の仲間と卒業式にて

    お世話になった寮監と寮の仲間と卒業式にて。

     「ふと疲れて飲み物を取りに行ったら、たまたま近くにいた学生と会話が始まり、そこから深い話に発展していって、そのまま部屋になだれ込んで議論を続ける、などということがよくありました。みんな違う勉強をしているし、なかにはスポーツや音楽のプロもいるような多様性に富んだ仲間です。そこで生まれる議論は本当に刺激的でしたし、日々新しい発見があり、アイディアがうかびました。こうした会話が自然と生まれるような環境それ自体が、大学の学びの本質ではないかと思ったのです」
     マイクロソフトやフェイスブックがハーバード大学の学生寮から生まれたという話はあまりに有名だ。寮生活を中心に「人」から相互的に学ぶ、これこそがリベラルアーツ(教養)教育の本質ではないか。そんな想いに突き動かされ、小林さんはハーバード大学在学中に、学寮生活を中心としたリベラルアーツ教育を日本でも実践できないかと、HLABの活動をスタートさせたのだ。

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