Global Frontline~グローバルな舞台でチャレンジする人たち~
地球の周りのゴミを掃除し、持続可能な宇宙環境を築く
プロフィール
小林裕亮(こばやし・ゆうすけ)
マサチューセッツ工科大学(MIT)航空宇宙工学科において修士号取得後、日本電気株式会社(NEC)の宇宙事業部門で衛星システムズエンジニアとして勤務。地球観測衛星を主として、人工衛星の設計から製造試験、軌道上運用を含むライフサイクル一貫に携わる。海外のロケットサービスや地上局プロバイダとの技術調整も実施。現在はスペースデブリの除去・軌道上サービスを事業とするアストロスケールで、ミッション・システムズエンジニアとして働く。ランデブ技術が要となる、スペースデブリ除去サービスの人工衛星の設計に従事。さまざまな国籍やバックグラウンドを有するチームメートと、2020年打上げ予定の技術実証プロジェクトをリーダーの1人として推進。
誰かが宇宙を掃除しなければ、日常生活にも支障をきたすように
水質汚染や大気汚染など、世界の多くの国がさまざまな環境問題に直面しており、それをいかに解決していくかは人類共通の大きな課題の一つとなっています。しかし、環境問題は地球上に限ったことではないのです。実は地球の外側、宇宙空間でも環境破壊が深刻化していています。その原因となっているのが、宇宙の軌道上に存在するスペースデブリです。
スペースデブリとは主に廃棄された人工衛星やロケットの上段、破損して宇宙空間に散らばったそのパーツなどですが、人類が宇宙開発を開始してから60年以上が経過するなかで増加の一途をたどっています。現在では、地球から観測できる10センチ以上の大きさのスペースデブリだけでも約2万3千個、地球からは観測不能な極小サイズのものまで含めれば、その数は推計1億個以上にも上るともいわれています。この膨大な数のスペースデブリにより、現在、宇宙の環境が脅かされつつあるのです。
数センチにも満たないほんの小さなスペースデブリでも、地表面から500km ほどの高度(一般的に低軌道と呼ばれる) では秒速7~8キロ以上もの速度で移動しています。これは東京から大阪までを1分で到達できるほどの速さです。人工衛星に衝突して当たり所が悪ければ、その機能を停止させるのに十分な破壊力を有しています。
日頃意識する機会はあまりないかもしれませんが、携帯電話やカーナビに搭載されているGPS、BS放送、安全保障、災害時の被災地状況監視など、私たちの現在の生活は、さまざまな場面で人工衛星からのデータによって支えられています。スペースデブリの衝突によって人工衛星が破壊されれば、いま当たり前のように利用しているサービスが機能不全に陥る可能性が大いにあります。
だからこそ、誰かが宇宙を掃除しなければならない。しかし、これまで率先して掃除を引き受けてくれる人や組織はありませんでした。それどころか、掃除をする方法すら確立されていません。ならば、自分たちで方法を生み出し、実践しよう。そして、これからはゴミを出さない、持続可能な宇宙開発を行う方法を生み出し、実行していこう。それが、私が勤めるアストロスケールが掲げているミッションです。
子どものころに漠然と抱いた興味が宇宙工学へと誘う
宇宙の環境問題を解決しようという、これまで誰も手がけたことのない壮大なミッションを掲げる会社に勤務しているのだから、きっと幼いころから宇宙に並々ならぬ思いを抱いていたのではないかと聞かれることも多いのですが、私が宇宙と関わる道を志すようになったのは意外にも遅く、大学生になってからです。
それ以前にも、小学生のころに毛利衛宇宙飛行士がスペースシャトル「エンデバー号」に搭乗したニュースを目にして、宇宙に興味は抱いていました。とはいえ、将来、宇宙と関わる仕事をしようとまでは、そのころは考えていませんでした。
私が宇宙工学の道に進むことを決意したのは、大学3年生になってから。東京大学の理科一類に在学していたのですが、専門を決めなければならなくなって迷っていたとき、小学生のころに抱いた宇宙への興味を思い出したのです。建築も好きだったので、そちらの道に進もうかとも考えたのですが、当時の私には何か大きな動くものをつくりたいという希望があり、宇宙工学のほうがそれを叶えられそうだと思い、選択しました。
MITで味わった英語によるディスカッションの難しさ
私は大学卒業後にアメリカのMITの航空宇宙工学科に留学しています。これも意外に思われるかもしれませんが、もともと海外留学志向がそれほど強かったわけではありません。
きっかけとなったのは、大学の研究室が主体の一つとして開催していたコンテストです。それは、空き缶サイズでつくった装置をアマチュアロケットで飛ばして、目標地点にどれだけ近く戻ってこられるかというもので、そこで指導してくださった先輩がMITに留学されたのです。それまで私にはまったく無縁の存在と思っていたMITがなんだか身近に感じられるようになってきたのです。
アメリカは宇宙工学におけるトップランナーです。しかも、MITにはその分野の俊英が世界各国から集まっています。同じ宇宙工学を学ぶなら、このまま日本にいるより刺激的な環境に飛び込んだほうが得られるものも多いのではないか。そう思って修士号はMITで取得することを決意し、無事入学することができました。
ただ思い切って飛び込んではみたものの、英語には本当に苦労しました。実は、私は父の仕事の都合で幼少期にアメリカのニュージャージー州で暮らしたことがあります。現地の小学校に通っていた経験から、英語での会話にもさほど不自由はしないつもりでした。しかし、それはあくまでも、子どもの日常生活レベルに限ったことだったのだと痛感させられました。
日本語での会話でも、大人と子どもでは使う言葉や言い回しなど、違いが多くあります。英語でもそれは同じです。大人と子どもの会話であれば、大人が子どもに合わせて、子どもにも理解できるような言葉や言い回しを使ってくれますが、学生同士ではそこまでの配慮は期待できません。しかも、アカデミックな場での専門分野がテーマとなれば、そこでしか使われない難解な単語や表現などもバンバン飛び交うので、“子どもの英会話”しか身につけていなかった私は置き去りにされてしまいました。おかげで、ディスカッションのセッションがあるたびにストレスを感じたものです。
やっかいなことに、英語でのディスカッション力は、机上の勉強だけではなかなか向上を見込めません。とはいえ苦手だからといって尻込みしていては、何のためにMITに留学したのかわからない。とにかく場数を踏んで慣れるしかないと必死に食らいついていき、1年ほどかけてどうにか周囲と対等にディスカッションができるようになりました。
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