Leader's Voice
6カ国語を操る国際人社長、プロレスビジネスに挑む
プロフィール
ハロルド・ジョージ・メイ
1963年、オランダ生まれ。少年期を日本やインドネシアで過ごす。ニューヨーク大学修士課程修了。ハイネケンジャパン(現ハイネケン・キリン)、日本リーバ(現ユニリーバ・ジャパン)、サンスター、日本コカ・コーラでは副社長に就任し、2014年3月にタカラトミー入社。経営顧問、COO兼海外事業統括本部長などを経て、翌6月に代表取締役社長兼CEO。空港へのガチャ設置、リカちゃん人形へのてこ入れなど、柔軟かつ大胆な発想で、同社の経営を赤字から大幅黒字へとV字回復させた。18年6月より、新日本プロレスリング(株)で現職。
- 目次
- 異文化理解力
- 戦略・ビジネスモデル創出力
言語は文化とセットで身につけなくては意味がない
「日本語が上手ですね」って? そう、オランダ語、日本語、英語、ドイツ語、フランス語、インドネシア語、言葉は6カ国語を話します。私が生まれたオランダは、複数の国に囲まれた小さな国ですから、オランダ人はみんな語学が得意なのだと思います。
日本語を覚えたのは、子どものころに日本に住んでいたから。1971年に父が日本企業の役員に起用されたのです。私は8歳で、日本のインターナショナルスクールに通いました。学校では英語オンリー、一歩外へ出れば日本語オンリー。どちらも完全に、チンプンカンプンでした。
ある日、学校帰りに乗るバスを間違えて、迷子になりかけたことがあります。途方にくれているところを、事情を察した運転手さんに救われ、なんとか家にたどり着きましたが、これは絶対に日本語を覚えなくてはだめだと、子ども心に強く思いました。右も左も分からない環境に放り込まれたのだから、溺れたくなければ泳ぐしかない、言葉を学ぶしかないわけです。そう気づくことができたのは、両親が過保護でなかったおかげかもしれません。
それからは、知らない国で困らないように、友達ができるように、懸命に日本語を覚えました。言葉というのは、その言葉が話されている国の文化にどっぷりと浸からないと身につかないものです。人生の早い段階で、私は身をもってそのことを学習しました。
とはいえ、そこは子どもですから、文化といってもかわいいもので、当時流行っていた仮面ライダーのテーマソングを歌って日本語を覚えたのです。すごく楽しいうえに、好きなテレビ番組と紐づいているので、言葉が腹に落ちやすいのは確かでしたね。文化にどっぷり浸かって言葉を覚えるというのは、例えばそういったことです。こうして少しずつ日本語に親しみ、学校生活を通じて次第に英語も話せるようになっていきました。
複数の言語を使うようになって面白いと思うのは、話す言語によって、自分の立ち居振舞いや、メンタリティーまで変わることです。自分という同じひとりの人間が、日本語を話しているときは、自然と謙虚で相手に配慮した話し方に、英語では自然と論理的で強い押し出しになっている。それぞれの言語の土壌にある心情や思考パターンが、言葉とセットで身体に沁み込んでいるのだと思います。
せっかく外国語を覚えても、その言語がもつ文化を理解できなければ、本当の意味で言葉を使いこなすことはできません。本気で外国語をモノにしたいなら、短期間でもいい、留学でも旅行でもいいから、その言葉が話されている国の文化に、どっぷり浸かる経験をするといいですよ。
世界のビジネスは「狩猟文化」で回っている
これまでの企業人としての人生を、半分は日本企業で、半分は外資系企業で仕事をしてきました。その経験から学んだことを少しお話しましょう。外国の企業と日本の企業の違いは、一言で言うと狩猟文化的と農耕文化的な違いです。狩猟文化では、それぞれで狩りをして獲物を分かち合います。外資系の会社でも同じで、何事も基本的にひとりでやりますから、決断力、決断のスピード、責任と、すべて個人の肩にかかります。
農耕文化では、みんなで力を合わせて作物をつくります。日本はどちらかといえば農耕文化的だと思いますが、日本企業では、何かあれば集団で責任を取り、良いことも悪いことも「この人がやった」とはなりにくい。そして、集団が心をひとつにして同じ方向に動き出すと、ものすごいパワーが出ます。その組織力で、日本は驚異的な高度成長を成し遂げました。
しかし、グローバル社会のビジネス環境は狩猟文化的ですから、これから先もグローバル社会に農耕型の手法が通用するかというと疑問です。だからこそ、農耕型の文化を理解し、同時に狩猟型の土俵でも戦える私のような人間が、日本企業で求められているのだと思います。
国際的な環境で仕事をしていると、自社の製品やサービスにかける情熱とは別に、日本人はもっと、言葉自体がもつ“熱”を意識したほうがいいと思う場面がよくあります。日本的な謙譲の美徳や婉曲な表現は、世界では通用しないうえ、誤解の原因になることが多いのです。
例えば、海外の投資家に、「それでこのプロジェクトは誰がやるの?」と聞かれたとき、日本人は「我々がやります」と答えます。私なら、「私が社長ですから、私がやります」と答えるでしょう。
ピンポイントで責任の所在を示す。相手の目を見て、自信を込めた大きな声ではっきり話す。どちらも国際社会で相手の信頼を得るための基本です。プレゼンテーションでも、“This is THE best! This is perfect!”と、熱い言葉で強気に攻める。そして、国際語である数字とロジックを使って、できるだけ具体的に話す。世界を相手に仕事をする人は、参考にしていただきたいと思います。
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