Leader's Voice
6カ国語を操る国際人社長、プロレスビジネスに挑む
プロフィール
ハロルド・ジョージ・メイ
1963年、オランダ生まれ。少年期を日本やインドネシアで過ごす。ニューヨーク大学修士課程修了。ハイネケンジャパン(現ハイネケン・キリン)、日本リーバ(現ユニリーバ・ジャパン)、サンスター、日本コカ・コーラでは副社長に就任し、2014年3月にタカラトミー入社。経営顧問、COO兼海外事業統括本部長などを経て、翌6月に代表取締役社長兼CEO。空港へのガチャ設置、リカちゃん人形へのてこ入れなど、柔軟かつ大胆な発想で、同社の経営を赤字から大幅黒字へとV字回復させた。18年6月より、新日本プロレスリング(株)で現職。
- 目次
- 異文化理解力
- 戦略・ビジネスモデル創出力
グローバル人材に求められる6つの力
IIBCでは、グローバルな環境で仕事をする人に欠かせないスキルやリテラシーとして、「個としての軸」「決断力」「戦略・ビジネスモデル創出力」「異文化理解力」「多様性活用力」「コミュニケーション力」の6つの力があるといっていますね。組織のなかではその時々の立場によって、一つひとつの要素の重みは変わってきますが、どれもとても重要です。私自身を振り返って当てはめてみると、次のようになります。
「個としての軸」というと、私のキーワードは“イニシアティブ”です。言われてやるだけではなく、言われなくてもやる。あるいは、これをやろうと自ら発案する姿勢ですね。今取り組んでいるプロレスのビジネスには、乱暴だとか、少々偏見をもっている人もいます。だから新日本プロレスの社長としては、健全な企業としてのイメージを正しく伝えるために、コーポレートマーケティングに力を入れています。会社の顔を売るというのは、社長にしかできないことですから、それが今の私の「軸」です。
「決断力」という点では、私はかなり現場に任せる主義です。最終的な責任はもちろん私にありますが、現代ビジネスはとても複雑化していますから、人に任せる勇気がないと物事が進みません。特に、海外との仕事ではスピーディな決断は必須です。
私自身、たぶん人生で最大のリスクを取って決断したことのひとつに、こういうことがありました。日本コカ・コーラの副社長だったとき、東日本大震災が発生し、飲料会社として被災地に水を届けようということになったのです。社長は海外出張中だったため、私の判断で何万ケースもの水を用意しました。 ところが、高速道路が閉鎖されており、輸送ができないのです。
しかし、被災地の人達のことを考えると、何とかして水を送ってあげたい。そこで自分の判断と責任で、友人である在日米軍の総司令官に電話をしました。すると彼は、すぐに第7艦隊の司令官の協力を取りつけてくれたのです。私達が用意した水は、なんと米軍のヘリコプターと空母によって、無事、被災地に届けられました。そういう「決断力」が試されることもあるのです。
「戦略・ビジネスモデル創出力」は、一般の社員が考える場面はあまりないかもしれませんが、経営側の立場になると、常に中長期的な展望で戦略を考えることになります。
「異文化理解」は学んで身につけるものではなく、唯一できるのは経験することです。日本企業は今、グローバル市場に活路を見いだそうとしていますが、日本の会社の CEO で、海外経験がある人は果たしてどれほどいるでしょうか。ある調査によると、世界のトップ2500社では、海外経験があるCEOは2012年の時点で45%と、およそ半数を占めていました。日本企業はせめて報酬や待遇面を含めて体制を整え、外国人、留学経験者、海外で暮らした経験をもつ人達を、もっと受け入れることが急務です。それが「多様性活用力」にもつながります。
「コミュニケーション力」とは、ただ互いをよく知って仲良くしましょう、ということではありません。私が考える「コミュニケーション力」は、相手を動かすために不可欠な、みなぎる熱意です。自信をもって何度でも熱く語り、伝えるべきことを相手の胸に刻み込む力です。日本では自信を誇示することは憚られることが多いですが、狩猟文化的なグローバル市場で戦うためには絶対的に必要な力で、組織のなかで上に行けば行くほど問われることになります。
私のキャリアの集大成、プロレスビジネスの魅力
ビジネスマンとして、私は今、プロレスリングがもつポテンシャルに、すごく燃えています。世界には大小さまざまなプロレス団体がありますが、新日本プロレス(NJPW)は、規模でも人気の面でも、アメリカのWWEに次ぐ世界第2位です。日本国内だけでやっていても世界2位ですから、本気で海外に進出すれば、素晴らしく大きなビジネスになる可能性を秘めています。
今年(2019年)の4月、プロレスの聖地、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで、 初めてNJPWが試合をしました。1万6000席のチケットは、発売16分で完売したとの報道がありました。マディソン・スクエア・ガーデンの60年の歴史のなかで最短記録を樹立。お客さんの99%はアメリカ人です。オフィシャル動画やYouTube動画を通じて、NJPWはすでにアメリカのプロレスファンの心を、しっかりつかんでいたのです。
試合当日、スター選手のひとりであるオカダ・カズチカ選手が登場すると、満員のアリーナに熱狂的なオカダコールが巻き起こりました。“Okada! Okada!”の歓声に包まれ、その場にいた私も鳥肌が立ちました。「これはいける!」と確信した瞬間でした。
47年の歴史と高い知名度をもつ新日本プロレスですが、ビジネスの面では勝負はこれからです。選手の健康管理や移動時間を考えると、年間の試合数を今の150試合から倍に増やすのは不可能です。だから、試合をインターネットで海外にも配信する、あるいはテレビの放映権を売る。テレビゲーム、写真集、カードや T シャツ、マスコットといったグッズ販売など、関連するビジネスの柱を複数立ち上げられるでしょう。
発想を実現するには、海外のパートナーと一つひとつ交渉し、契約社会のルールに則って、複雑な契約書を結ばなくてはなりません。日本のプロレスの世界には、これまでそうしたビジネススキルはあまり必要ありませんでした。でも、これからは違います。そこにこそ私が培ってきた経験や能力やスキルが役立つはずです。だからプロレスは、私にとって集大成というべきビジネスなのです。
日本ならではのビジネスチャンスを掘り起こせ
プロレスビジネスに飛び込んだ理由は、実はもうひとつあります。もともとプロレスが好きなのです。8歳で日本へ来たとき、日本語がまったく分からない父と私が、たったひとつ、テレビで一緒に楽しめたのがプロレスでした。
プロレスはフィジカルで、明快です。解説者が興奮して絶叫するのを聞くと、何を言っているかは分からなくても、「きっとものすごい技なんだな!」と、私達もテレビの前で大興奮したものです。そんなふうに父と子が一緒に楽しめるものは、そう多くはありません。プロレスは、私達親子のコミュニケーションにとても貢献してくれました。日本に来たばかりで辛いことが多かった日々のなかで、私はプロレスに救われたという思いがあります。だから今度は、そのプロレスに恩返しをしたいのです。
これから世界に出ていく若い人にアドバイスをするとしたら、できるだけ早く、人生の目標を決めることを勧めます。目標が決まれば、日々の行動がその目標に向けたものになるので、投資効率が俄然よくなります。
それから、まだビジネスの光が当たっていない、日本の可能性をどんどん発掘してください。日本には世界で高い評価を受けるような宝がたくさんあります。新しいものを追い求めるのもよいのですが、「定番」と呼ばれるものの底力は侮れない。そこに光を当ててリバイタライズすると面白いと思います。何百年という歴史ある蔵で、昔ながらの製法で作っている酒や醤油などは、定番中の定番です。日本ならではの伝統を今に留めているものには、素晴らしい価値があり、世界はそれを歓迎します。
日本の会社であること、日本の商品を世に出すことに、誇りをもってください。外国人を相手に、「いや、うちはまだまだです」なんて、謙遜していてはだめですよ。どうぞ胸を張って、世界を相手に活躍してほしいと思います。
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グローバル人材育成プログラムについて
IIBCは、国境のみならず、あらゆる境界を越えて世界で活躍する人材を育てたいと考えています。グローバル化やデジタル化で世界がますます複雑化していく時代に大切な「個としての軸」「決断力」「戦略・ビジネスモデル創出力」「異文化理解力」「多様性活用力」「コミュニケーション力」。グローバル人材育成プログラムは、これらを学び、考え、育む機会を、EVENTやARTICLEを通じて提供していきます。
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