Global Frontline~グローバルな舞台でチャレンジする人たち~

キリロム工科大学学長猪塚武氏キリロム工科大学学長猪塚武氏
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自分の「背中を見せる」ことで想いは伝わり、人の気持ちが動く

カンボジアのリゾート地にあるキリロム工科大学で、英語による最先端のIT技術の学びを基軸にグローバル人材の育成に取り組む猪塚武さん。カンボジアをはじめ新興国の若者にチャンスを与え、日本のIT企業のための人材確保にも寄与したいと夢を語る。貧しくても能力がある、努力する人が勝ち上がっていける仕組みをつくりたい──そんな猪塚さんのチャレンジの原動力となっているものとは何だろうか。

    プロフィール
    猪塚 武(いづか・たけし)
    1967年、香川県生まれ。キリロム工科大学学長。vKirirom Pte. Ltd. CEO/Founder。早稲田大学理工学部物理学科、東京工業大学大学院理工学研究科修了。アクセンチュア勤務を経て、1998年に株式会社デジタルフォレストを設立。2010年に会社を売却しシンガポールへ。2014年、プノンペンに移住。キリロム工科大学を中心とした「vキリロムネイチャーシティ」を設立。世界的な起業家組織EOのプノンペン支部会長。日本人起業家のグローバルネットワーク一般社団法人WAOJE 代表理事。2016年度、「国際アントレプレナー賞最優秀賞」受賞。

    日本人起業家、カンボジアに大学をつくる

    カンボジア人や新興国の若者にチャンスを与え、カンボジアの再建に役立つのではと思い、大学をつくった猪塚さん。

     カンボジアの首都プノンペンから車でおよそ2時間。豊かな自然に恵まれたキリロム国立公園内に、私がキリロム工科大学(KIT)を設立して、もうすぐ4年になります。
     KITは、新興国のリーダー育成に特化した大学で、現在1年生から4年生まで、134名の学生が学んでいます。カンボジア人がほとんどですが、新興国の学生と先進国の学生が共に学び、世界的なネットワークを築くことも想定しており、いずれはカンボジア人30%、ASEANの学生30%、日本人30%、他国10%くらいで構成する、多国籍な大学を目指しています。
     私は以前、「日本のITは完全に負けた」と痛感したことがあります。それは起業家の世界組織で、理事集会に参加したときのことでした。世界中の起業家が、互いに活発に話をしているなかで、英語ができない日本の起業家達だけが、会話に入っていけない実態を目にしたのです。
     これは衝撃でした。IT技術というのは、オープンソースとして公開されているソフトウェアのソースコード(中身)に、世界中のエンジニアが自由にアクセスして、改造や改良などのコミットをして開発していきますから、英語ができなくてはそこに参加することさえできず、話にならないのです。日本の場合、たまたま英語が分かるエンジニアが、これは良い技術だと思ったものを翻訳し、サイトや本で発表してから、やっと物事が動き始めるので周回遅れです。とうていオープンイノベーションでは勝てません。
     国際競争を戦うには、ITは英語で行わなければならないのです。日本のIT企業は、英語化が必須です。中国やベトナムなどで、日本語エンジニアへのアウトソーシングニーズは、直接雇用を除いて2020年くらいには消滅すると私は考えています。KITを創設するに至った背景には、日本のIT企業の未来を支える、新たな人材育成という意味もありました。

    「人生に希望を与える大学」を支える仕組み

    授業や教員と学生達のミーティングは英語で行われる。

     KITでの日課は、基本的に午前中が基礎・コア科目の授業、午後からはプロジェクトチームに分かれてのインターンシップに当てられます。講義はもちろんすべて英語です。
     IT教育を行うのは、IT大国インドから招いた教師陣です。今やシリコンバレーの企業トップでさえ、多くのインド系の方が務めるほど優秀で、文字通りITをめぐる最先端の世界を、教えてもらうことができます。一方、企業から受託した仕事に取り組むインターンシップも、4年間を通じて、豊富な実践経験と学びの宝庫となっています。

    コンペティションで受賞した学生達。

     KITのスポンサー企業は複数あり、卒業後、大半の学生がそれらの企業に就職するので、インターンシップは企業のリクエストに応じて行っています。おかげで、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)に対応した不動産ソフトの開発、水道メーターのIoT化、動画・インフォグラフィックス制作、決済アプリ、セキュリティオートメーションと、最新のシステム開発や広範な研究に、KITの学生達は、在学中から深くかかわることができます。こうして彼らは着実に力を伸ばし、世界の企業がエントリーするようなコンペティションでも、すでに6回のエントリーすべてで受賞を果たしています。
     大事なことは、KITは小さいけれども、入学すれば必ず、世界で身をたてるに足るIT技術を基礎から実践まで学べる大学だということです。かつての内戦で傷ついたカンボジアには、解決すべき課題が今も山積ですが、とりわけ教育は壊滅的です。教育を立て直さないうちは、何をやってもうまくいかないというほど、状況が悪いのです。

    インターンシッププロジェクトの一環でドローンを操縦する学生。

     KITで勉強すれば、良い会社に就職して経済的に安定した生活が送れる、人生に希望がもてるようになる──。そう思っている学生は皆、必死で英語とIT技術を勉強します。
     一期生が今年卒業しますが、卒業生の7割は、4年間の奨学金のスポンサーになってくれた日本企業に就職します。このスポンサー制度により、カンボジア人エンジニアを安く雇おうとするブラック企業は、はじめから入ってこられず、学生を守ることができます。つまりKITの学生の就職先は、もともと優良企業しかないのです。
     スポンサー企業はインターンシップ研修にも深くかかわっていますから、すでに4年間の実務経験をもつ新卒社員を、喜んで迎えてくれます。KITの卒業生のなかには、初年度の年収が380万円という人もいて、日本の新卒者と比べてもかなり高いと思います。それくらい、学生の技術力を高く評価してくれている企業がスポンサーになってくれるのは大変ありがたいことです。

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