Global Frontline~グローバルな舞台でチャレンジする人たち~
リーダーの「フォロワーシップ」と「スタイル」の確立が、チームを強くする
プロフィール
中竹竜二(なかたけ・りゅうじ)
1973年福岡県生まれ。早稲田大学人間科学部卒。大学時代はラグビー蹴球部の主将を務め、全国大学選手権で準優勝。レスター大学大学院社会学修士課程修了。2001年、三菱総合研究所に入社。06年に、早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任すると、翌年から2年連続で大学選手権を制覇した。10年、日本ラグビーフットボール協会、初代コーチングディレクター。12年より3期にわたり、U20日本代表ヘッドコーチ、16年には日本代表ヘッドコーチ代行を兼務。14年、企業のリーダー育成トレーニングを行う株式会社チームボックスを設立。18年には、一般社団法人スポーツコーチングJapan を立ち上げ、その代表理事も務める。『新版リーダーシップからフォロワーシップへ カリスマリーダー不要の組織づくりとは』(CCCメディアハウス)など著書多数。
「日本一オーラのないラグビー監督」のチームづくり
私は2006年に清宮克幸監督の後任として、早稲田大学ラグビー蹴球部の監督になりました。清宮さんと私とは、早大ラグビー蹴球部の先輩・後輩ですから、現役時代にキャプテンをやっていた私が、先輩の目に留まっていたとしても不思議はありません。私は、とてもへたくそなキャプテンでしたから、「なんでこいつがキャプテンなんだ?」と疑問に思われていたのかもしれません。しかし、そのチームがなぜかよくまとまっているという印象はもたれていたようです。
清宮さんには、「お前の指導力にはまったく期待しない。ただ、ラグビー蹴球部の若いOBとして同世代を巻き込み、これからのチームをつくっていってほしい」と言われ、私は監督を務めることになりました。このときの経験を通じて、ともに働く仲間のポテンシャルを引き出し、その力を発揮させる術を、たくさんの失敗とともに学ぶことになったのです。
清宮監督は、カリスマ性がある素晴らしい監督でした。強力なリーダーシップの下に、優秀な選手が集結し、監督が決めた戦略を忠実に遂行して、圧倒的な力で勝っていくスタイルでした。
一方、私には当初は指導経験もありませんでしたから、そのようなやり方は無理です。一人ひとりのメンバーが、監督に頼らず自ら考え、自ら問題を解決して勝っていく、そんなチームづくりを目指すことにしました。
そのための仕組みづくりとして、ありとあらゆることをやりましたが、圧倒的に増えたのが個人面談です。一人ひとりに、「君ってどういう選手?」「そもそもこのチームで何をやりたいのだっけ?」と、問いかけることから始めました。
人というのは、聞き手でいるよりも自分が話すほうが主体的になりますから、私が選手達の「フォロワー」となって、彼らを支え育てる役割を果たすのは自然なことでした。チームのみんなはやがて、率先して試合の作戦を考え、練習方法を練り直すようになり、ミーティングは活発な意見交換の場となっていきました。
多面的な自分自身の分析が「スタイル」をつくる
監督もそうですが、リーダーにはとかく、いわゆる「リーダーシップ」が求められがちです。さらに、リーダー自身も「自分が周り(フォロワー)を引っ張っていかなくては」と考えがちですが、「フォロワーシップ」の発揮が重要だと考えています。私が考えるフォロワーシップとは、「部下が自律的に考えるためのサポートを、リーダーの役割として果たすこと」です。言い換えれば、リーダーには、自らが引っ張ることだけではなく、仲間が自律的に考え動くために、リーダーとして何をすべきかを考えることも求められるのです。
そして、良いリーダー、良いチームメンバーとは、身の丈に合った言動や態度を貫ける人ではないでしょうか。私はその一貫性を「スタイル」と呼んでいます。そして「スタイル」を確立するには、自分自身を多面的に見つめて分析し、自分という人間を、深く客観的に理解することが不可欠です。ところが多くの人は、自分の弱点をさらけ出せなかったり、あるいは、他人には丸見えの弱点に、本人だけが気づけなかったりします。だから、自分の弱点とどう向き合えばいいのか分からないのではないでしょうか。
私は大学時代、ラグビー蹴球部で一番足の遅い選手でした。どんなに練習しても、少しも速くならないのです。しかしあるとき、自分のポジションをよく分析してみたところ、直線で50メートルを全力疾走する状況はほとんどないと気づきました。スピードが必要な場面でも、ゲームの流れを正しく読み、スタートのタイミングをはかり、コースを考えて走れば、鈍足がカバーできると分かったのです。私は80分間の試合中、全力疾走はしないことに決めました。必死で走ってもタイムはほとんど変わらない。ならば体力を温存するほうが、自分にもチームにもプラスです。以来、それが私の「スタイル」になりました。
こうしてみると、「自分らしさ」や「スタイル」は、必ずしも格好の良いものではありません。しかし、向き合い方ひとつで、短所さえも味方につけて、自分の「スタイル」をつくることができるのです。リーダーであってもなくても、自分ならではの「スタイル」を大事にして、自らのポテンシャルを引き出してもらいたいと思います。
リーダーに重要なのは特定のスキルよりも「アティチュード」
スポーツの世界とかかわりながらも、私は長らく人材育成の仕事に携わってきました。人を変え、世の中を変えるにはどうしたらいいかと考えて、2014年に株式会社チームボックスという会社を立ち上げました。
この会社は、企業のトップや次世代を担う幹部候補を対象にした育成プログラムを行っています。集合トレーニング、職場での実践、専属のコーチによる1 on 1をサイクルとして、およそ半年をかけて取り組む体系的なプログラムを通じ、現場から学び、現場で実践することを、一人ひとりに合わせて習慣化していきます。参加者の方はほぼみな、人が変わってきます。自分とは何者なのかを考え、「自分らしさ」の本質について理解が進み、それとともに自分の「スタイル」が確立されていくのです。
グローバルリーダーという概念についても、私達は個々のスキルに特化して語ることはしません。むしろ、人の成長を信じることができるか、物事を決断する勇気、自分の弱さとどう向き合うかといった、行動の背景にある「アティチュード(姿勢・態度)」が重要だと考えています。
より具体的には、①方針を示し、②率先して動き、③チームビルディングを行い、④メンバーのやる気を上げ、⑤役割分担を共有し、⑥すべての責任を引き受ける、といったことが、リーダーには求められると考えています。
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