Global Frontline~グローバルな舞台でチャレンジする人たち~
山梨県・勝沼から世界へ、心に響く日本ワインを届ける
プロフィール
三澤彩奈(みさわ・あやな)
1923年に創業した中央葡萄酒株式会社(グレイスワイン)の4代目オーナー、三澤茂計氏の長女として生まれ、幼少のころから祖父や父のワインづくりを見て育つ。ボルドー大学のドゥニ・デュブルデュー氏との出会いをきっかけにフランスに留学。ボルドー大学ワイン醸造学部を卒業後、ブルゴーニュでフランス醸造栽培上級技術者資格を取得。南アフリカ・ステレンボッシュ大学院で学んだのち、ニュージーランド、オーストラリアなど南半球のワイナリーと日本を行き来しながら研鑽を積む。2014年、世界最大級のワインコンクール「デカンタ・ワールド・ワイン・アワード」にて、日本ワイン初の金賞を受賞。以来、5年連続で金賞受賞。
ワインのための醸造学を学びにフランス・ボルドーへ
ワインの産地として知られる山梨県・勝沼町のワイナリーに生まれ、祖父や父がワインづくりに心血を注ぐ姿を、ずっと間近で見てきました。私が同じ道を歩もうと決めたのは、父に連れられて行ったマレーシアでのこと。マンダリンオリエンタルホテルのモダンジャパニーズのレストランで、ソムリエから外国人ご夫妻を紹介されたのです。私たちがつくる「グレイス甲州」を気に入ってくださり、それを飲むために3日間続けてレストランに通ってくださっているとのこと。その奥様が、「このワインは、味もラベルも、すべてが日本を表現しているかのようね」とおっしゃってくださったのです。
祖父も父も、地元のブドウ品種「甲州」の可能性を信じ、人生を捧げてきました。かつて、ワインをつくるブドウには適さない品種だと言われ、悔しい思いをしてきたことも知っています。その努力の末に生まれたワインが「すべてにおいて日本を表現している」と評されるとは、なんてすごいことだろうと思って。そのとき、私もこの品種に人生を賭けてみたいと思ったのです。
父が経営する中央葡萄酒に入社してしばらく経ったころ、「甲州」を醸造するプロジェクトで、フランスのボルドー大学の教授で醸造学者でもあるドゥニ・デュブルデュー氏と出会う機会に恵まれました。それまでの日本のワインづくりは、どちらかと言えば感覚に頼る部分が多かったのですが、デュブルデュー教授の醸造は曖昧さがなく、すべてが科学に裏付けされたもの。世界に通用するワインづくりの一端を見て、心から感銘を受けました。“いいワインをつくるための醸造学”をもっと学びたい。その一心で、デュブルデュー教授が教鞭をとるボルドー大学への留学を決意しました。
同じ目標に向かって邁進する同志との出会い
ボルドー大学では、子どものころから父の側で見聞きしてきたことが、「こういう理由であのようなことを行っていたのか」と、すべて裏付けされていくような感覚を味わいました。クラスメートは私と同じように家族経営のワイナリー出身者が多くて、それも非常に刺激になりました。同世代の友人が都会で華やかな生活をしているなか、地方で畑を守りながら生きていくというのは勇気がいることです。同じ目標に向かって進んでいる仲間だからこそ、分かり合える部分が多かったですし、時には、外では言えないような家族への不満なども(笑)、みんなで集まると本音で語り合うことができました。
ボルドー大学での授業は、当然ながらすべてフランス語。これにはかなり苦労しました。大学に併設されていた語学学校にも通い、いつもいちばん前の席に座って授業をMDウォークマンで録音し、通学中にずっと聞いていました。言葉の壁といえば、日本人は「ありがとう」の代わりに「すみません」と言うことがありますよね。同じような感覚で直訳して、フランス語で「すみません」と言ったら、フランス人の男の子に「(女の子は)人生で一度も使わない言葉なんだから、言わなくていいよ」と返されたことがあります。フランス人の女の子って、絶対に謝らないんです(笑)。言葉の壁は文化の壁でもあるのだなと、つくづく感じました。
1年の半分は季節が逆転する南半球で“武者修行”
フランスに来て、ワインづくりに関して日本と圧倒的に違うと思ったのは、醸造よりも栽培へのこだわりが強いということ。日本では農家さんからブドウを買ってワインをつくることが多いのですが、やはり自社でブドウからきちんとつくらなければいけないと感じました。そこで、ブドウ栽培をもう少し見てみたいと思い、ボルドー大学の課程を終えたあとブルゴーニュに拠点を移して、専門学校に1年間通いました。その後、日本に帰国しましたが、ご縁というのは続くものですね。今度は南アフリカの大学院で学ぶチャンスが訪れました。以前から、フランスのようなヨーロッパの伝統国だけでなく、ワイン新興国の産地でも学びたいと考えていたので、南アフリカに行くことに迷いはありませんでした。1カ月間という限られた時間でしたが、伝統にとらわれず、ただただ良いワインをつくるために新たな栽培や醸造法を追求する姿勢に触れて、私の意識も大きく変わっていきました。帰国したあとも、新しい産地をもっと見てみたいという気持ちが抑えきれず、日本での作業がない時期は、季節が逆転する南半球のオーストラリアやニュージーランドのワイナリーに“武者修行”に出るという生活を6年ほど続けました。とにかく、ワインづくりがもっと知りたいと、無我夢中だったのです。
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