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岡崎仰氏「単身送り込まれたシリコンバレーで新たな事業を開拓する」岡崎仰氏「単身送り込まれたシリコンバレーで新たな事業を開拓する」
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単身送り込まれたシリコンバレーで新たな事業を開拓する

世界最先端のビジネスやイノベーションを生み出し続ける米国シリコンバレー。無人の車が自動運転で走り、ロボットがコーヒーを入れる姿が見られるなど、日々変化するこの地では、数多の企業が互いにしのぎを削り合い、激しい競争が繰り広げられている。日本生命に勤務する岡崎仰さんは、2017年、この土地に単身乗り込み、ゼロから新たな事業を立ち上げるという難題に挑んだ。現在では、現地のR&D業務のヘッドとして活躍する岡崎さんに、異なる文化の中で新規事業に挑戦するために必要とされるスキルや心構えについて語っていただいた。

    プロフィール
    岡崎仰(おかざき・たかし)
    一橋大学商学部商学科卒業後、日本生命保険相互会社に入社。個人保険事業の企画部門にて、異業種企業との提携事業の企画および実行、ビッグデータ分析基盤やクラウドコンピューティングの導入など、社内初の新規案件を数多く担当する。2017年、シリコンバレー拠点の立ち上げのため、米国に赴任。現在は、Nippon Life X Silicon ValleyのR&D業務のヘッドとして、当地で調査や提携先の探索、テクノロジービジネスの企画・開発活動に従事。スタンフォード大学のUS-ASIA Technology Management Centerで客員研究員としても活動している。

    学生時代から抱いていた海外勤務の夢を実現する

     私は現在、Nippon Life X Silicon ValleyのR&D業務のヘッドとして、生命保険業の高度化や新規事業開発のため、提携先の探索や実証実験に力を入れています。プロジェクトの目的はさまざまで、短期的な成果を求めるものもあれば、数年後を視野に入れて研究開発を進めるものもあります。いずれも、北米のスタートアップ企業や大学などと連携し、技術やビジネスモデルのテストを行い、日本や海外のビジネスに導入できるか検証するというサイクルで取り組んでいます。

    海外で働きたいという思いを学生時代から持ち続け、30代半ばでそれが叶うことになった岡崎さん。

    海外で働きたいという思いを学生時代から持ち続け、30代半ばでそれが叶うことになった岡崎さん。

     私が勤務先の日本生命から米国シリコンバレーへの異動を打診されたのは、2017年2月のことでした。まったく予期せぬ事態でしたので、正直、驚きました。というのも、当時の日本生命はシリコンバレーに支社や支店などはなく、これといった事業すら行っていなかったからです。

     ただ、同時に喜びも感じました。当時、私は30代半ばで、10年近く個人保険事業の企画部門に在籍していました。その間、異業種企業との提携事業の企画・実行や、社内初となる新規案件を数多く手がけてきました。その実績が評価されての抜擢と言われたのは嬉しかったですし、何より海外で働くことは、学生時代からの私の目標の一つだったのです。

     将来、海外で仕事をする日のために、社会人になってからも英語の勉強は独学でコツコツと続けてきました。いつか海外で働きたいという思いを上司に打ち明けたこともあります。そのため、シリコンバレーに誰を送り込むかという話が社の上層部で持ち上がったとき、私の話を覚えていてくれた上司が推薦してくれたのです。「新規事業の立ち上げ経験が豊富で、海外で働く意欲も高い岡崎なら期待できるのではないか」と。ありがたい、と思いましたね。

     その頃の私は、日常の業務に追われる日々が10年以上続く中、心の中の海外志向も徐々に薄れつつあった時期でした。でも、この日を境に思いが再燃しました。会社と上司の期待に応えるため、何より私自身の長年の夢を実現するため、「やってやろう」という気持ちでシリコンバレーへと乗り込んでいったのです。

    相手の信頼を得ることで新たな事業の土台を築く

     私が赴任する数カ月前から、シリコンバレーのオフィスには日本生命の職員が先んじて一人赴任していました。彼はシステム畑の人材で、営業や企画などの方面での経験はほとんど持っていませんでしたので、ビジネス的な判断は私に委ねられることになりました。指示を与えてくれる上司もいなければ、手助けしてくれる同僚や部下もいない。それは逆に言えば、自分の好きなように仕事ができるということ。大変だけれど、その分やりがいのある仕事だと思いました。

     私がまず取り組んだのは、このシリコンバレーの地で自分に何ができるのかを知ることです。このこと自体はそれほど難しい問題ではありませんでした。見知らぬ土地で日本生命がノウハウを持たない技術開発やテクノロジービジネスの開発に一足飛びにチャレンジしても、成功する見込みは薄い。イノベーションの世界的な中心地であるシリコンバレーの地の利を生かし、R&Dや投資活動から開始するのがベターだろうと考えました。それがそのまま現在の業務にもつながっているわけですが、最初の頃は協業候補先や投資先を見つけるのにも一苦労でした。

    サービス利用者の意見を聴くユーザーテスティングの様子。

    サービス利用者の意見を聴くユーザーテスティングの様子。

     シリコンバレーには数えきれないほど多くの企業が存在し、日々新たなスタートアップ企業が続々と生まれています。有望な企業の探索には困らない環境だと思われるかもしれませんが、当時の私には、シリコンバレーでどんな企業がどんなビジネスを展開しているのかという情報がほとんどなく、どの企業と接触するのが適切なのか判断する材料すらまるでない状況でした。

     日本と違って日本生命の知名度は高くないですし、コネクションも当然ゼロ。何もしなくても情報が自然と集まってくる環境ではないので、自分から積極的に動いて情報収集する必要があります。そこで始めたのが、シリコンバレーにオフィスを構える企業のリサーチと、コネクションづくりです。

     どんな企業が何をしているのかを調べて、興味が湧いたらアポイントを取り、相手のキーパーソンと会って話をする。それを繰り返しているうちに、親しくなった人から有益な情報がもらえるようになり、そこからさらに縁が広がりビジネスチャンスも拡大していく。日本の企業で営業に携わるビジネスパーソンの多くが実践していることと同じですね。そして、そこで重要になるのが、いかに相手に信頼してもらうかということです。

     意外に思うかもしれませんが、シリコンバレーという土地は身内意識がけっこう強くて、「よそ者」を簡単に信用しない風潮があります。ですから、こちらとしては、彼らに「仲間」として認めてもらえるようなアクションが欠かせません。

    現地で働いている日本人がよくやるように、少しでも親近感を持ってもらえるよう、本名の岡崎をアレンジしたZackという愛称を自分自身に付けて活動する、なんてことも始めました。Nippon Life X Silicon Valleyという名前も、現地の人々から意見を聞きながら、グローバルに通用するものとして発案しました。もちろん、体裁を整えるだけでは信頼は得られません。人付き合いで最も大切なのはコミュニケーション。それは日本でも米国でも同じです。ただ、その手法まで日本にいるときと同じでは通用しません。「シリコンバレー流」のコミュニケーションを意識して相手と向かい合うことを常に心がけています。

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