Leader's Voice
真のリーダーは起業家精神を武器に、リスクを厭わず戦い続ける
プロフィール
浜田 宏(はまだ・ひろし)
1959年、東京都生まれ。早稲田大学卒業。海運会社に勤務の後、AIG(現メットライフ生命保険)を経て、米アリゾナ州立大学サンダーバード国際経営大学院に留学、国際経営学修士課程修了。米国クラーク・コンサルティング・グループを経て、デル・コンピュータ(現デル)株式会社に入社。2000年、同社代表取締役社長および同社アメリカ本社副社長を務める。デルを退職後は、株式会社リヴァンプの代表パートナー、HOYA株式会社のCOOなどを歴任。2015年5月、アルヒ株式会社代表取締役会長CEOに就任、同年9月より現職。
本当の経営には、創業マインドが欠かせない
グローバルビジネスの世界で、日本企業の強みはチームワークだと思います。チーム全体や目標達成のために、自己犠牲を払っても貢献し成果を上げるのが日本の企業です。その反面、日本企業には、旧態依然とした家族主義的な体制が色濃く残っているところもあります。本当に国際競争力のあるグローバル企業を目指すなら、本気で変革する必要があります。つつがなく任期を終えればいいという考えの経営者には、とてもグローバル企業を育てることなどできません。
必要なのは、規格外のリーダーです。そのリーダーシップのもと、年功序列も男女格差も廃止し、社外取締役には外国人も登用する。海外オフィスの優秀な人間を、本社の要職に抜擢する。トップがリスクを取り、目の色を変えて改革しない限り、グローバル化は難しいと思います。
先日ニューヨークで会った投資家が、こう嘆いていました。「日本の経営者達は、資本主義を理解していない」と。例えば、「金儲けは悪」という考え方から抜け出せず、「そんなに儲ける気はありません」と平気で言ってしまう経営者は、グローバルな視点では、本気で患者を治す気がない医者のように受け止められてしまうこともあるのです。グローバル化を目指すなら、経営者にはグローバル感覚が必要です。そしてもうひとつ、欠かせないと思っているのが、創業マインドです。
私は国内外の複数の会社で、経営に携わってきました。例えば、デルの日本法人の立ち上げに参画し、社長になった私は、真の経営者とはいえませんでした。海外の企業の日本法人なので、戦略などの最終決定権は、私ではなく米国本社にあったからです。HOYAでの経験も同様です。HOYAは光学レンズや精密機器のメーカーで、日本発のグローバル企業といっていいでしょう。そのCOOだった私は、世間からはプロ経営者のように言われもしましたが、自分としてはやはり雇われ経営者でした。
本当の意味で自分が経営者になったと思えたのは、現在の会社に来てからです。会社自体は前からありましたが、私は自ら事業のコンセプトを考え、戦略を考え、新しい社名を考え、企業カルチャーを決めて、第二創業を目指したのです。自分も株主として多額の投資をし、CEO就任から2年半後には一部上場を達成しました。創業社長の意識をもって経営に取り組むことが、ようやくできるようになりました。
お金でも名誉でもなく、「これをやるのが楽しい、好きだ」と腹の底から思えるか。寝ても覚めても「次はこれをやりたい、あれを始めたい」と考えていられるか。その次元で創業マインドをもって経営にかかわることが、今の会社ではできています。
第二創業への軌跡 ― 社名に込めた企業スピリットとトップの想いを全社員で共有
社名をSBIモーゲージから「アルヒ株式会社」に変えたのは私です。
「アルヒ」とは、人生の節目の「ある日」、大きな決断をする「ある日」です。人はある日、家を買おうとか人生を変えようとか、とても大きな決断をします。その大切な「ある日」を全力で応援するという会社のスピリットを社名に込めたのです。
最初、社員達は「え? アルヒ?」と、少しとまどっていました(笑)。でも、会社が社会に認知されれば、違和感などすぐ消えます。そんなことより、社名ひとつにどれだけ経営者の魂がこもっているか、想いがこもっているかが大事です。
事業の面でも、いろいろと変えてきました。お客様の新しい暮らしが始まる「ある日」を、あらゆる角度から応援しようと、住宅ローンだけではなく、不動産事業者や消費財メーカーなどと提携したり、住生活に役立つ情報サイトを立ち上げたり、新しい取り組みを始めました。お客様がほしいのは、新しい住まいであり、新しい人生であって、住宅ローン商品ではないはずです。お客様が家を買おうと思い立ったときから、私達はそのパートナーとして、何十年も寄り添い続ける企業を目指す、そう決めたのです。
これを社員にしっかり理解してもらうために、「私たちは金融業ではなく、サービス業なんだ」と、経営合宿や朝礼、全社員とのミーティングでも、繰り返し自分の口で話してきました。そういうことを続けていくと、社員は変わり、会社も変わっていきます。
肩書きや給料に興味はない。面白い仕事かどうかがすべて
大学卒業後、私が最初に入社したのは、いわゆる日本の大企業でした。でも入社2日目にして、典型的な日本企業は自分に向かないと自覚しました。それでその後、外資系企業に転職して留学費用を貯め、渡米しました。
アメリカで大学院を卒業して、そのまま現地に残り仕事を探したわけですが、「国際経営学の修士号を取ったから、どの会社に就職できるかな」といったことは、頭をよぎりもしませんでした。“すごい会社”に就職し、課長になり部長になって、退職金をもらってゴールなどという発想は、日本の会社を辞めた時点で捨てていたからです。だから仕事選びはしても、会社選びはしない。肩書きや給料ではなく、自分が面白い仕事と思えるかどうかがすべてという「軸」は、今に至るまで変わっていません。
こういう感覚は、ずっとひとつの企業のなかで、同質の仲間に囲まれて過ごしたことしかない人には理解しがたいかもしれません。しかし、自分の“村”しか知らなければ、外の世界は想像すらできないように、その理解しがたい感覚のほうが、グローバル化が進む世界とは真逆ともいえます。
もし、海外に駐在し、外国人の間で孤軍奮闘した経験など、逃げ場のないところで鍛えられた経験があれば、国際社会の現実も、グローバル企業の経営についても、理解が進むと思います。しかし、上司も部下も日本人で、転職や留学など、外の世界を知る経験もない人に、突然グローバル人材になれと言っても難しいでしょう。明日から相撲取りになれ、100メートルを10秒で走れと求められるのと同じくらい、私には不可能な話に思えてなりません。
アスリートとして成功するには、トレーニングを積み重ねる必要があるように、グローバル人材を目指すのであれば、広い世界に出て、厳しい環境のなかで自分を鍛え、グローバル社会を生き抜くマインドセットをつくらなければいけません。私は若いときに、世界中どこででも通用するビジネスマンになろうと思い、ずっと自分を追い込んできて、今があります。
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